40 共通テスト
休み明け。
私はいつものように朝のホームルーム開始5分前にクラスのドアをくぐり、既に来ているであろう文音の姿を探した。文音は机でどうやら勉強をしているようだ。
「おはようございます文音」
「おーやっほ碧。今日も5分前到着お疲れ様!」
「文音は共通テストに向けて追い込みですか?」
「うん! まぁね!」
以前は五分五分と言っていたが、その後どうなのかは聞いていなかった。
今週末には共通テストがあるのだから最後の追い込みに重要ないま態々文音に戦況を聞いたりはしないことにした。
すぐにホームルームが始まり、共通テストへ向けての最後の1週間であることが女性教諭からも告げられる。
「最後の追い込みもいいですが、体調を整える事に万全を期すように! 本番で風邪を引いたりしていたら元も子もありませんからね! それでは今日の朝のホームルームはここまで! 日直ー」
ホームルームが終わり、しばらくして1限目の古典の授業が始まった。
内容は共通テストへ向けての基本の最終確認といった体で、活用形をしっかり確認した。
そして同様に2限目3限目、そして4限目と共通テストへ向けての最終確認は続いていく。
昼休みになり、文音が「お疲れー碧」と声をかけつつ、机をくっつけてきた。
今日もいつものように一緒にお昼を食べるのだ。
「さすがに共通テスト前の最後の一週間ですから、先生たちみんな気合入っていましたね」
私はそう言いながらお弁当を広げる。
「だねー。まぁウチって一応私立の進学校だしね!」
「確かに……スポーツ推薦の方も居ますが基本は進学校ですね」
「てか、碧も一応共通テスト受けるんでしょ?」
「はい。一応出願はしていたので、合格した大学から受けるように言われてもいますし……」
「そっか! んじゃ現地では一緒だね! 同じ会場だったらお昼一緒に食べたいね!」
「はい。できればそのように」
私は文音にそう答えると、お弁当を食べた。
そして流れるように午後の授業も終わり、1日を終えた。
∬
2054年1月11日。共通テスト2日目。
数学の試験を終えた私は、受けない理科の試験を残して試験終了となった。
文音も同じく試験を終了したようで、会場外で合流する。
同じ大学だったが違う会場だったので、お弁当を一緒に食べることは叶わなかった。
「碧ー! 終わったねー!」
「はい。終わりました」
「ずばりどうだった?!」
「私は勉強不足で全然でした……特に数学が……文音は?」
「私は今の実力を完全に引き出せたかなって思ってるよ!」
「それは良かったですね」
「うんうん! この調子で行けば志望校合格間違いなしって感じする!」
文音がとても嬉しそうに笑っている。
私はその笑顔を見て、なんだか自分も嬉しくなってきていた。
「碧はこのあとどうするの? 上月くんがまだ試験受けてるよね?」
「はい。待とうかとも思ったのですが、零一くんから2科目受けるから先に帰ってくれて構わないと言われていて……」
「そっかー理系は大変だね。じゃあ帰ろっか?」
「はい。そうしましょう」
私は零一くんのことが些か心配ではあったが、文音と共に帰路につく。
午後4時の東京では、珍しく雪がちらほらと舞っていた。
∬
家について1時間半ほど経っただろうか。
零一くんから「試験終了しました!」という知らせが届いた。
私はすぐにメッセージを送り返す。
「お疲れ様でした。どうでしたか?」
「うん。問題なく、二次試験に進めそうだよ」
「それは良かったですね!」
「うん。藤堂さんも心配してくれてありがとう」
「いえ、私は別に……彼女として当然のことをしているだけですので」
そんなやり取りをして、私はるんるん気分でダイニングキッチンにいた母、祐奈に「零一くん共通テスト上手く行ったそうです」と報告した。
「そう! 良かったわね」
「はい!」
そんな話を横で聞いていた父が「東王大学の学生さんと婚約してるってなったら凄いね」と私に笑いかけた。
それに私は「確かにそうですが、別に落ちてしまったとしても私の零一さんなのは変わりませんから」と答えると、座っている父の背中を軽く叩いた。
「共通テスト後は登校するの?」
「はい。一応。文音や操とも会いたいので」
「へぇそう? 上月くんはまだ二次試験に向けて勉強をするんでしょう? 学校へは来るのかしら?」
「はい、恐らくは……」
わが校は私立の進学校だ。
下手な学習塾に入り浸るよりも良い受験対策を提供しているように思う。
だからきっと零一くんも学校の授業を受けに来るはずだと私は思っていた。
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