34 初詣

 翌朝。

 上月くんからメッセージが届いた。


「メリークリスマス!

 昨日のクリスマスパーティ楽しかったです。

 お義父さんとお義母さんによろしくお伝えください。

 それと冬休みなんだけれど、良かったら初詣へ一緒に行きませんか?

 良ければ斉藤さんと五所川原さんも誘って6人でと思っています」


 私はすぐさま返事をする。


「メリークリスマス!

 父と母にはよく伝えておきます。

 皆で初詣良いですね、是非一緒に行きたいです」


 これでお正月の予定も埋まってしまい、私は忙しない気分だった。

 どんな服装で行くか事前に文音と操の二人に相談しなければなるまい。

 私はさっそく二人へメッセージを送った。




   ∬




 2054年1月1日。木曜日。朝9時。

 私、文音、操の3人は揃って着物屋さんを出た。

 あとは男性陣が待つ駅前へと行くのみだ。


「さぁ男どもの待つ場所へ行くぞー!」

「はい」

「えぇ、参りましょう」


 文音が宣言し、私と操が文音に続き、私達は駅前の待ち合わせ場所に向かった。


 待ち合わせ場所に着くと、一際背の大きい五所川原さんの姿が見えた。


「あ、五所川原さん達、いらしているようです!」


 操が張り切って腕を振る。

 斉藤さんの姿も視界に入り、そして上月くんを私も見つけた……のだが。


「お待たせ、みんな!」


 黄色ベースの着物を羽織った文音が一番にそう言って斉藤さんの腕にしがみつく。


「五所川原さん。お待たせ致しました」

「いえ、僕らもさっき合流したところです」


 五所川原さんが藍色の着物を着込んだ操の腕を取る。


「上月くん……お待たせしました……」

「あーうん。おはよう藤堂さん……」


 黒の花柄の着物を着た私の腕を上月くんは取らない……いや、取れないでいた。

 何故ならば……。


「もう遅いですわ皆さん! 10分も待っていましてよ!!」


 と言う着物姿の下月都恋ちゃんが、上月くんとがっつり腕を組んでいたからだ。


「え? 誰?」


 文音が素直な疑問を口にする。

 すると上月くんが慌てて口を挟んだ。


「こ、こちら僕の親戚の下月都恋です……! ウチの親族、大晦日から正月にウチへ集う風習があるんですけど、そこで今日友人と初詣に行くって皆に言ったら、流れで押し付けられて……」

「まぁ……! 押し付けられただなんて酷いですわ零一さん!」


 都恋ちゃんがぽんぽんと左手で上月くんを叩く。


「これはこれは……下月都恋さんでしたか、おはようございます」


 あくまで平静を装うように挨拶をする操。

 文音が「失礼ですけど……」と切り出した。


「今日は私達トリプルデートの予定だったんです。こちらの藤堂碧と上月零一くんが婚約している仲なのはご存知ですよね……?」

「えぇ……もちろん存じ上げております。藤堂さんとは色々とありましたから、ですから今日は和解にと……ね? 零一さん」


 都恋ちゃんが上月くんに絡めていた腕を少しだけ緩めると、上月くんが右腕を私に向けて差し出した。


「ごめん藤堂さん、こっちは藤堂さん用だから!

 それと都恋は和解の記念にって言って譲らなくてさ……ほんとごめん!」


 言われ、私は上月くんの右腕を取った。

 左腕は都恋ちゃんに占領されてしまっているので仕方がない。

 文音はまだギロリと都恋ちゃんを睨みつけているが、私は取り敢えず右腕を確保出来たのでよしとした。


「着物似合ってます、藤堂さん!」

「はい。ありがとうございます」


 私の黒の花柄の着物を上月くんが褒める。


「ちょっと零一さん、私には言ってくださいませんでしてよ?」

「都恋も、まぁ似合ってるんじゃないか」

「そうですか? ありがとうございます!」


 都恋ちゃんの赤い着物をそう上月くんが評すると、五所川原さんが「では、行きましょうか」と言い、私達は神社へと向かった。




   ∬




「わぁ……人がいっぱい……!」


 文音が感想を述べて辺りを見回す。

 普段ならばあまり人を見かけない神社も、初詣の今日この日とあっては様相が違っていた。

 さすがに私達のように着物を着ている女子はあまり見かけなかったが、それでも沢山の人々が初詣に参っていた。


「まずはお参りをしましょう! その後で各種縁起物などを揃えるとしましょう」


 操が先導し私達は賽銭箱へと向かう。

 『賽銭は100円からでお願いします』と書かれている看板を横目に、私は100円玉をお財布から取り出した。


 操が賽銭を置くように入れ、鐘を鳴らす。


「次は2回礼をして、そのあと2拍手。それからお願い事をしてもう一回礼をするらしいね」


 五所川原さんの言う通りに操が2礼2拍手を実行。

 そしてお願い事をして一礼した。


 続き、文音達二人が賽銭を入れ鐘を鳴らす。

 そして文音たちのお願い事が終わった後、私と上月くん、そして都恋ちゃんの3人が進み出た。


 各々に賽銭を入れ、「どうぞ」と都恋ちゃんに言われたので、私と上月くん二人で鐘を鳴らした。都恋ちゃんは見ているのみだ。

 そして2礼2拍手。

 私は心の中で、上月くんの受験が上手くいきますようにと願う。

 そしてお願い事が終わると、1礼した。


 皆の元へと戻ると、お守りなどを買おうという話になった。

 私は上月くんに学業成就のお守りをプレゼントする気でいたので、それを上月くんに告げる。

 被ってしまってもあれかと思ったからだ。


「上月くん、私から学業成就のお守りをプレゼントさせて頂きます」

「え? 本当に? 自分で買おうと思っていたから助かるよ」

「では買ってまいりますね」

「うん、いってらっしゃい」


 私が上月くんの腕を離し、お守りを買いに文音、操と共に社務所へと向かった。


「結構並んでるね……」

「そうですね……」

「はい。10分はかかりそうですね」


 文音の言に操と私とが応え、私達は大人しく列へと並んだ。




   ∬




「ではこちら、学業成就のお守りとなります」

「はい。ありがとうございます」


 私が最後に学業成就のお守りを受け取り、私達3人は男性陣と都恋ちゃんの待つ場所へと向かった。


「お待たせ、波瑠兄!」

「あぁ、おかえり……そうだ藤堂さん。

 なんか都恋ちゃんがトイレ行きたいって言って上月くんを連れて行っちゃったよ」

「は? 波瑠兄そんなのまさか放っておいたの!?」


 文音が斉藤さんに詰め寄る。


「いや、だって女の子のトイレとかついていくわけにもいかないだろ?」

「そんなの嘘に決まってるじゃん! あーもうバカバカ波瑠兄!」


 文音がぽかぽかと斉藤さんを殴り、操が私に言った。


「まぁまだ嘘と決まったわけではありませんし、碧、零一くんに電話してみたらどうでしょう?」

「はい。電話してみます」


 私は上月くんに電話をかける……しかし彼は電話には出ない。


「どうやら電波が悪いようです……」


 私がスマホを耳に当てながらそう言うと、五所川原さんが困ったように言った。


「弱ったな……このあとどうしようか?」

「予定では解散して、各ペアで行動することになってたんだけど……藤堂さん一人残して行くわけにも行かないよね……どうしようか?」


 五所川原さんに斉藤さんが同調する。


「私、トイレに寄れそうな場所を探してみようと思います」


 操が捜索を宣言し、「私も!」と文音がそれに続こうとしたが、操が「文音ちゃんは碧と一緒に居てあげてください。上月くんたちも戻ってくるかもしれませんし」と言うので、私は文音と斉藤さんと共にここで待つことにした。

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