30 婚約

 12月14日。日曜日。

 私は父と母と共に、都内にある料亭を訪ねた。

 料亭の一室へと案内されると、既に上月くん、きらりさん、そして学園長の3人がいた。

 私と上月くんは制服を着ている。二人で事前に打ち合わせた結果だ。


「こんばんは、本日はお招き頂きありがとうございます。

 碧の父、藤堂武人と申します」

「碧の母、藤堂祐奈です。本日はどうぞよろしくお願い致します」


 父と母が挨拶すると、上月くんとそのご両親も自己紹介の挨拶をする。

 そして男親二人はなにやら名刺を交換。


「まぁ、まずは席へどうぞ」


 上月くんのお父さんにそう促され、私達は席へ着いた。


「本日はお越しいただき誠にありがとうございます。

 結納というほど堅苦しいものではありませんが、若い二人が婚約をしたということ、この場をもって公にすると共に、お互いにご挨拶の場として一席設けさせて頂きました。

 まずは二人の若人の未来に乾杯とさせて頂きます、乾杯!」


 上月くんのお父さん――健流さんが口上を述べ乾杯する。


「乾杯!」


 大人はお酒を、私と上月くんの二人はコーラを飲む。

 始めに切り出したのは私の父、武人だった。


「いやぁ、舞踏会で娘の相手を零一くんにして貰ってからまだ3ヶ月と経たない内に、まさか二人が結婚の約束をしようとは……驚きました」

「えぇ本当に! まさか舞踏会のお相手としてだけでなくて、結婚の約束までしているだなんて思っても見ませんでした」


 私の母、祐奈がそう重ねると、上月くんが照れた表情で、


「僕も、舞踏会の時は婚約するとまでは思っても見ませんでした……」


 と感想を述べる。

 それはそうだ。なにせ私達は舞踏会で初めて交際の契約を交わしたのだ。

 それが一足飛びに婚約まで行こうとは……いまでも驚きで一杯だ。

 本当にこれで良かったのかと私は今日まで何度か上月くんに尋ねたのだが、婚約は交際契約の延長線上にある行為であるというので一応私達の中で一致している。

 だから今でも交際契約に過ぎないのだ。


「それはそうと、武人さんは老舗のゲーム会社にお勤めだとか……」


 学園長が父の仕事の話を始めた。


 そう、私の父はゲーム会社に務めている。

 私の趣味がゲームであるのも父の影響が大きい。

 小さい頃からゲームキャラの人形を与えられて育てられたのが私だ。

 父や母もゲーム好きであるのが影響して、我が家では家族揃ってゲームをすることが多い。

 無論、三人一緒にということは稀だが、別々のゲームをそれぞれにスマホやコンシューマーゲーム機、パソコンなどでプレイしている。


「あぁ、はい。勤続21年ほどになるしがないサラリーマンでして」

「いえいえ、大手のゲーム会社ではないですか。ご立派です」

「それはどうも……ありがとうございます」


 学園長に立派だと言われ、父が照れて頭の後ろを掻いた。


「それで碧ちゃんも趣味がゲームなのね?」

「はい。そうなります」


 きらりさんが私に問い、私が簡潔に答える。


 きっときらりさんもコンキン! での私のプロフィールでも見たのだろう。

 学園長か上月くんかどちらかかは分からないが、きらりさんに画面を見せたんだろう。

 第三者に情報を開示するのは良い行為とは言えないが、仕方あるまい。


「お母様は専業主婦をしていらっしゃるのね」

「はい。今どきお恥ずかしい話ですが……」


 きらりさんに母が答えると、


「恥ずかしいだなんてそんなこと! 共働き世帯が多い中、旦那さんだけの収入でやっていけるなんて幸せなことですよ」


 ときらりさんが更に被せる。

 そして私が、


「上月くんのお母様はDNAマッチングアソシエーションで働いていらっしゃるのですよね?」


 と尋ねると、きらりさんは「えぇ、日本支部の理事の一人として」と微笑む。


 幹部であることは聞いてはいたものの、理事だったのか……! と驚愕する私。

 母もきらりさんの答えを聞き、驚いている様子だ。


「DNAマッチングと言えば碧、あなた上月くんとDNA検査したんでしょう?」


 母、祐奈が私に聞いた。


「はい。HLA遺伝子マッチング率87%で、子供の遺伝的疾病リスクも低いと出ました」


 私がそう答えると、私の母が「87%って高いのかしら?」と聞く。


「えぇ……! 87%は日本人同士にしてはかなり高いマッチング率でしてよ」


 きらりさんが太鼓判を押すように言い切った。


「あらそうですのね、良かったわね碧」

「はい。本当に」


 本当に良かった。きらりさんが私達を認めてくれて。

 もしそうでなければ、私は今頃、大学入学の為に彼氏を探す日々に明け暮れていただろう。

 大学入学後も単位のかかったパートナーとの特別授業が続くとはあまり思っていなかったが、高校でそうなのだから大学でもそうなんだろうと今では諦めがついている。

 それに私には交際契約をしているとはいえ、こうして婚約までしている上月くんがいるのだ。


 いつ交際契約を解除されるのか分からないとはいえ、急な交際関係の解消は上月くんも望むところではないという話だ。きっと仮に交際解消となっても段階を踏んでくれるのだろう。

 私は上月くんを信頼している。


 そんなことを思いながらも談笑しながらの食事は進み、ついに最後に私と上月くんから一言ずつ貰うという話になった。まずは上月くんが切り出す。


「まず今日、僕たち二人の為にこんな会を開いてくれたことに感謝します。ありがとうございます。僕と藤堂碧さんが結婚の約束をしたということ、今日こうしてお互いの両親に知らせることができたこととても嬉しく思います。未熟者ですが、どうぞこれからもよろしくお願い致します」


 上月くんのターンが終わり、私の番がやってきた。


「結納ほど堅苦しいものではないとのことでしたが、本日は私と上月零一くんの二人の為に、このような食事会を開いて頂いたことありがとうございます。まだまだ右も左も分からない二人ですが、協力し歩んでいきたいと思っています。どうぞ、これからも末永くよろしくお願い致します」


 座りながらではあるがペコリと丁寧に頭を下げる。


 私達二人の最後の挨拶を以って、婚約披露食事会はお開きとなった。

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