29 第一回上月家会議その2
私はハリウッド女優になることが夢だと堂々と告げる。
考え込む上月くんのお父さん。
しかし30秒ほどして口を開いた。
「夢は夢だ。学生の時分に抱く夢としても些か壮大ではあるが、私は別にそれを否定しようとまでは思わないよ。けどね藤堂さん、多くの人に知られてしまったのはあまり良くない。夢が壮大であればあるだけ、それは夢物語だと馬鹿にする者が出るのは避けられないからだ」
上月くんのお父さんが冷静に続ける。
「ましてや、それが次代の上月家を担うことになるだろう零一の彼女である君から発せられたというのが、ますます良くない」
「父さん! それは言い過ぎだよ」
上月くんが否定するが、上月くんのお父さんは止まらない。
「いや言い過ぎではない……! 零一、我が家はこの学園の収入で成り立っているのだよ。その我が家へ嫁ごうという彼女がこうまで浮ついた夢を持っていることを、世間様に知られすぎてしまっているのは良くないことだと、はっきりと言いきれる!
藤堂さんも、私の言っていることが分かるね?」
「はい。軽率な振る舞いでした」
私にだってそれくらいは分かる。
分かっているからこそ自身の軽率な振る舞いを恥じた。
上月くんのお父さんの――健流さんの言い分はもっともだ。
「うん……分かっているならばいいんだ。ではあとは任せたよ美知……きらり。
私はこれから会議があるんでね」
「はい……」
きらりさんが返事をし、上月くんのお父さんは席を立った。
「では失礼するよ藤堂さん」
上月くんのお父さんが学園長室をあとにしていく。
私はその様子になんだか違和感を感じていた。
本当にこの二人は夫婦なんだろうか?
あまりにも事務的なやり取りが過ぎるのではないか?
そんな私の疑念をよそに、きらりさんが切り出した。
「それでね碧ちゃん……もし零一とのことが本気なら、二人に私達から言うべきことがあります」
「はい。なんでしょうか?」
「碧ちゃん……。零一と婚約なさい」
そんな一言が発せられ、私は固まってしまった。
「は?」
「ちょっと母さん! 何を言い出すんだよ!!」
「これはさっきあなた達が来る前にお父さんとも相談していたことよ。
噂は噂。広まってしまったものはしょうがないわ。
けれど、その噂を機に碧ちゃんが零一の交際相手として相応しくないということを言ってくる人だっているのよ。だから先手を打つためにも私達はあなた達二人に婚約を提案します」
きらりさんが提言し、私と上月くんは顔を見合わせる。
「私が上月くんと……」
「僕が藤堂さんと……」
婚約。結婚の約束をすること……そんなことは分かっている。
問題は私達が交際を通り越して、婚約まで段階を飛ばしてすっ飛んでしまいそうなことだ。
私は上月くんとの交際契約のことが気になって上月くんを見た。
あくまで交際契約なのだ。婚約しろというのでは話が違ってくる。
「その……僕は藤堂さんがそれでもいいなら……」
「私も……上月くんがそれでもいいなら……」
私達はそんな言い分をそれぞれぶつけ合う。
すると痺れを切らしたのかきらりさんが問う。
「では二人共、婚約について了承するということで良いのかしら?」
上月くんが良いと言っているのだから、これは交際契約の延長なのだ。
そう自分に言い聞かせ、私は「はい」と答え、すぐに上月くんもそれに続いた。
「では今どき結納とまでは言わないけれど、碧ちゃんのご両親とお会いしなければならないわね……碧ちゃん、ご両親に言伝を頼んでもいいかしら?」
「はい」
私はきらりさんから来週か再来週末に両親の顔合わせ食事会を開催したい旨を受けた。
すぐにそれをメッセージで母と父に送る。
母、祐奈からは「婚約!?」と返ってきて、父、武人からも「それはまた話が早いね……」とすぐに返ってきた。
「それでは話は以上よ……色々と……年を超える前に済ませたいわね」
きらりさんがそう言い、学園長室での話し合いはお開きになった。
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