27 学園長

「ありがとうございました。失礼します」


 職員室を出て、さぁ帰りを待つ操の元へ向かおうと思ったその時だった。

 職員室の3件ほど隣、学園長室から学園長が出てきた。


 そして学園長が私を見つけると、歩いてきて私に向き合うと言った。


「君は……もしかして、零一と付き合ってくれているという女生徒の藤堂碧さんかな?」

「は、はい。藤堂碧と申します」


 私はいつものように丁寧にペコリとお辞儀。


「やはりそうか……失礼だが教員用のコンキン! アプリで見たよ。

 これも仕事でね、許して欲しい」


 あの私のプロフィールを見たということか。


「それは構いません……お目汚しでなければ良かったのですが」

「いや、私としても零一には誠実な付き合いをしてくれる女性をと思っていたところだ。君のような信条の女性に出会えて、きっと零一も喜んでいるだろう」


 学園長は続けて言う。


「しかし……コンキン! アプリの方の事はともかくとして、噂を聞いたよ」

「噂ですか? それは……」


 不味い。そう思った。


「なんでもハリウッド女優になるのが夢だそうじゃないか」

「はい……申し訳ありません」


 私は咄嗟に謝ってしまう。何も悪いことはしていないのに……。


「いや、謝る必要性はないがね。君のような信条を持つ女性の夢にしては、なんと壮大なことかと思っただけさ。DNAマッチングの話もきらりから聞いたよ。零一も君の為に嫌がっていたDNA検査を受けたのだとか……。今度、その事についても話し合おうか。君の夢のことも、どうやら噂というには広がり過ぎてしまっているように思う」

「はい……」

「では後日、零一の方から君へ予定を伝えるから、そうしたら学園長室へ来たまえ」

「はい……」

「うん。では失礼するよ」


 学園長が去ろうとしたときだった。

 学園長室の扉が開き、そこから若い女性が顔を見せた。


「あら、健流さ……学園長まだいらしたのね……」

「あぁ……美知流みちるくん……。ちょっと彼女と所要があってね」

「そうですか?」


 美知流と呼ばれた女性が私を見た。

 スーツこそ着ているが、あまり似合わない派手なイメージを持つ女性だ。

 腰まであろうかという長い黒髪が淫靡に艶めく。


「どうも初めまして、学園長付き秘書の坂柳さかやなぎ美知流よ」


 彼女はなぜか靴を履き直しながら私に自己紹介をした。


「初めまして、3Eの藤堂碧です」


 ペコリと頭を下げる。


「それでは僕はこれで……」


 去っていく学園長こと上月くんのお父さん。


「はい。いってらっしゃいませ」


 美知流さんがそれを見送り、私が「それでは、私もこれで失礼します」と背を向けた。


 下駄箱で待っていた操の元へ戻ると、


「遅かったではないですか! ……碧?」


 私が何やら考え込んでいた様子を察してか、私の顔を覗き込む操。


「……はい。申し訳ありません。学園長と少しお話をしていました」

「まぁ学園長と……?」

「はい。DNAマッチングのことや噂のことを少々……それで今度話し合いを持つことになりました」

「話し合いを……!? それは大変なことになりましたね」

「はい……あとで上月くんから連絡が来るそうです」

「それで考えるような表情だったのですね?」

「はい……いえ、それとは別件で……」


 私は学園長と坂柳さんとの間に流れていた、何とも言えない雰囲気に疑問を持っていた。


「別件ですか?」

「いえ、なんでもないんです。きっと気の所為でしょう」

「そうですか……?」


 不思議そうに私の顔を覗き込む操を連れ、私は学校を出て帰路についた。

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