25 推薦入試の結果と噂

 翌日。上月くんをクリスマスイヴに自宅へ招待したことを母にも承認してもらい、晴れ晴れとした気分で学校に登校していた。


「藤堂さん……ちょっと」


 私は昼休みに担任の女性教諭に進路相談室へと呼ばれる。

 もしかしてだけれど、推薦入試の合否が学校に届いたのかもしれない。


 昼休みになり進路相談室のドアを叩くと、「どうぞ」と担任教諭の声がしたので中へと入った。


「早速だけど、おめでとう藤堂さん。出願していた国際教養学部、合格だそうよ」

「それは……ありがとうございます」


 椅子に座りながら内心ガッツポーズをする私。

 これで進学先の憂いから解き放たれたのだ。

 舞踏会の単位も取れているし、あとは卒業を待つだけだ。


「そうなんだけど、今年から大学からある条件を提示されてるみたいでね?

 大学入学時にパートナーがいることが入学の条件だそうなのよ」

「はい? パートナーですか?」

「えぇ、そうパートナー」


 女性教諭は私の問いかけに頷くと続ける。


「なんでも去年パートナーが入学時にいない生徒が多かったらしくて、大学での必須単位を満たせない学生が大量に出たらしくてね。高校の単位――舞踏会を即席ペアでクリアした生徒がそんな憂き目にあったらしいのよ。だから入学時にもパートナーがいることが大学入学の条件になったって経緯ね……」

「なるほど……そのような条件が……」


 私がそう呟くと、女性教諭が聞いてきた。


「それで……上月くんとは交際が続いているのかしら?」

「はい。少なくとも現時点では……」


 交際契約は順調に続いている。

 しかし学校が違って離れ離れになる大学から先でも続くかどうかは私には分からない。

 上月くんに相談しなければならないだろう。


「そう……それなら良いのよ。

 それともう一つ藤堂さんには聞いておきたいことがあってね……?」


 女性教諭は気まずそうな表情になりながら続ける。


「藤堂さん……夢があるんですって?」

「はい? 夢ですか?」


 唐突にそんなことを切り出された。

 夢はあるにはあるが、操と文音、それに上月くんとそのお母さんであるきらりさんにしか告げていない話だ。

 私は不審に思って聞いた。


「あるにはありますが、それがなにか?」

「うんそれでね。それって、ハリウッド女優になるって話かしら?」

「はい……どこでそれを? よくご存知ですね」


 その私の台詞を聞いて、女性教諭は更に気まずそうに自身の右手を頬に当てた。


「まだ藤堂さんまで伝わってないかしら、実は学校でその話が噂になってるのよ。

 新宿の公園で大声でそう叫んでたって」

「それは……」


 確かに、あのとき周囲に学生くらいの年齢の人が居たかもしれない。

 しかし、まさか上月総合学園の生徒だったとは……。


「しかも藤堂さんは交際相手が交際相手でしょう?

 どうもここ数週間で急速に噂が広まってるらしくて、私も耳にしたのよ。

 別に噂が広がってるからどうとか、貴方の夢に対してどうとか言うつもりはないのよ?

 だからこその国際教養学部への進学だろうとも思えるしね。

 ただ余りにも噂のほうが一人歩きしているものだから、藤堂さんにも留意しておいてもらいたかっただけなの」

「そうですか……ご忠告ありがとうございます」

「えぇ、話は以上よ」


 私は立ち上がると、「ありがとうございました」とペコリと頭を下げ、進路相談室を出た。

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