23 クリスマスの予定

 次の日の朝。私は事の顛末を文音に語って聞かせた。


「そっかそっか! 良かったじゃん碧!」

「はい。本当に良かったです」

「それじゃ上月くんもDNA検査受けるんだね」

「はい。今日受けに行くようです」


 私がそう答えると、「へぇーようやく上月くんとの精度が分かるのかぁ」と文音は嬉しそうにしている。


「それに碧、まさかハリウッド女優になるのが夢なんてね!」


 私を気遣ってか小声で言う文音。


「はい。文音には隠していて申し訳ありませんでした」


 私はペコリと謝罪の言葉とともに頭を下げる。


「いいっていいって! 矢張さんと練習してる時点で役者志望なのは分かってた話だしね! でも、上月くんはなんで助けに来てくれたんだろうね?」


 ニヤニヤとした表情で文音が私に問う。


「さぁ……どうなのでしょうか?」


 私もとぼける。文音には上月くんが良く見るという夢の話はしていないのだ。

 だから私こと大好きな女の子が他の男に奪われるのは懲り懲りだと、そう上月くんが感じていたからだろうとは言わない。

 私が上月くんにとっての大好きな女の子になれているらしいということは、私だけが知っていればいいことだ。


「あーあー、私も波瑠兄にそんな風に助けて貰いたいなぁ。

 通学中に未だにナンパされることあるんだよ? 碧みたいに颯爽と王子様が助けに来てくれないものかね?」

「とかなんとか言って、渋谷駅まではいつも一緒に登校していると言っていたではないですか。その間は王子様とは言わずとも、斉藤さんがナイトの役割を果たせているのでは?」

「ナイトねぇ……波瑠兄は基本電車の中ではスマホゲーやってるけどなぁ。

 一緒にいるっていうのも周りの人が分かっているんだかいないんだか……。

 まぁでも、波瑠兄と一緒の区間で声をかけられることは減ったかな……?」


 文音は考え込むように言うと、「それよりも!」と話題を変えた。


「碧はクリスマスはどうするつもり? 上月くんを誘うとか誘われるとかないの?」

「クリスマスですか? 親と一緒に過ごすものと思っていました……」

「もう碧ったら! クリスマスって言えば恋人達の一大イベントでしょ!

 何か上月くんから聞いてないの?」

「はい。特別何も……。まだあと1ヶ月は先の話ですから。それに3週間前後でDNA検査の結果が出ますから、それまではまだ何とも言えません」

「あーそっか。DNA検査結果が出ないと上月くんのお母さんには認めてもらえないんだっけ?」

「はい。いい結果がでると良いのですが……」

「大丈夫、大丈夫! なんの根拠もないけどさ。きっと碧たちを神様が見ててくれてるって!」


 結果を恐れて縮こまる私の背中をバンバンと強く叩く文音。


「文音は神様とか信じる方でしたっけ?」

「いいえ? 自分たちの力の方を信じる方です! とはいえ神頼みもするときゃするけどね! 波瑠兄の就職が決まりますように~とか去年お願いしたなぁ」


 文音は思い出すように言うと、「うんうん、碧たちもきっと大丈夫!」と何の根拠もなく太鼓判を押した。

 私はそれに「そうだと良いのですが……」と自身なさげに答えた。


「それもだけどさ、碧は大学はどうする気なの?」

「はい。学校推薦で国際教養学部にこの間出願しましたが……文音は?」

「私は受験組だって碧に話してなかったっけ?」

「初めて聞きました」


 私が意外に思って文音を見る。


「そっか。まぁ舞踏会の相手探しで碧必死そうだったからね……だから話せてなかったのか。 夏休みはこれでもバリバリ塾に通ってたりもしたんだよ?」

「そうなのですか。それで勝算は?」

「五分五分ってとこかな、ニヒヒ」


 文音は苦笑する。


「まぁ! 受験に落ちたら落ちたで波瑠兄みたいに就職先でも探すよ!

 なんならしばらくは波瑠兄のお嫁さん就職でもいいかなって!」

「もう結婚を……?」

「うん、まぁ私が高校卒業したらいつでも良いかなって思ってるからさ。

 もしそうなったら、式はちょっと出来ないかもだけど、お祝いのパーティには碧を呼ぶからね!」


 声高らかにそう宣言する文音は、幸せに満ち満ちて見えた。

 きっとクリスマスの予定も斉藤さんと埋まっているに違いない。

 私も、上月くんとのクリスマスのこと、考えておかないとな。

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