19 DNA教で検査

 上月きらりさんの送ってきた地図通りに、新宿駅西口近くの商業施設であるワンフロアにたどり着いた私。受付できらりさんの名前を出すと、「少々お待ち下さい」と返された。

 待合室でしばしの間待つ。待合室のTVではHLA遺伝子が恋愛遺伝子とも呼ばれることなどが映像で流れていた。恋愛遺伝子。ならば私と上月くんの相性も良いはず……!


 そう思っていると、きらりさんがやってきた。


「碧ちゃん! よく来てくれたわー」


 きらりさんが私を出迎える。


「はい。本日はよろしくお願いします」


 私がペコリといつものように頭を下げると、きらりさんはとても嬉しそうに笑った。


「えぇ、えぇ……! 任せておいて。碧ちゃんに遺伝子の重要さを教えてあげる!

 まずはそうね……さっきからTVで流れてる映像は見て貰えたかな?」

「はい……ざっとですが、恋愛遺伝子と言われていることなどを見ましたが……」

「そう! 良かったわ。なら私から言うこともないわね!

 他にもウチの検査では遺伝的病の発病リスクなんかが手に取る様に分かるようになってるのよ。あとはそうねミトコンドリアDNAのハプログループなんかも分かるように出来てるの。ご先祖がどうやって日本までやってきたかとかが分かるのよ」


 きらりさんが説明しながら場所を移動した。

 ご先祖がどう日本に来たかなんてまるで興味がなかったけれど、そんなことまでDNA検査で分かってしまうのか……。


「早速で悪いんだけど、どう? やってみない?」


 検査室らしき場所にたどり着き問われ、ここに来ていいえとは言えなかった私は、「はい。よろしくお願いします」とだけ小さく言った。


「そう! 良かったわ……これで零一も検査してくれたら、二人の相性も丸わかりね!」


 きらりさんがそう言って「ちょっと、検査キット一つよろしく」と後ろの男性に声をかけた。

 すぐに検査キットが運び込まれ、「この綿棒で口の奥の粘膜を拭う感じにして頂戴」と言われ、私は言う通りにした。そして綿棒を検査キットへと入れる。


「うん……! OK、これで検査完了よ」


 検査は思っていたよりも遥かに簡単に終わってしまった。


「血液検査とかをするのかと思ってました」

「ないない……! 簡単でしょう? だからできるだけたくさんの人に検査してもらいたいのよね……ねぇ碧ちゃん、零一にもオススメしておいてくれない? 私が言うのも何度目か分からないんだもの。碧ちゃんから『私も検査しました!』って言われたら、きっと零一も検査してくれると思うのよね……ね? 一度だけでいいから!」


 そう請われ、私は「はい。一度だけでいいのでしたら……」と請け負った。

 私が検査したのも断りきれなかったからというのが一番大きいが、しかし上月くんとの相性が気になるからでもある。上月くんにも検査して貰えれば二人の遺伝的相性が分かって私としては有り難い話だ。


 そうして住所氏名などを検査用紙に記入。最後にコンキン! の識別コードが必要になった。


「じゃあそこね……コンキン! アプリ上の識別コードだけ教えてもらっていいかしら? 零一と調べる時に必要になるのよ……!」

「はい。分かりました」


 私はコンキン! アプリを開くと、Myプロフィール画面へ。そして私の識別コードを検査用紙に記入した。


「うん……! 有難う。これで書類もバッチリよ」


 そうして私は全ての検査工程を終えた。


「結果は2、3週間くらいで出て郵送されるわ。スマホアプリでも結果を見られるようになってるから安心して頂戴ね! じゃあ検査終わり! 帰っていいわよ碧ちゃん。

 今度はまた零一のことでもお話しましょう?」

「はい。ありがとうございました。

 その折は是非よろしくお願いします」

「うんうん!」


 嬉しそうなきらりさんを残し、私はDNA教の新宿センターを後にした。

 そして新宿からの帰り道、私は上月くんへDNA検査を受けたことを報告しておくことにした。メッセージアプリを立ち上げる。


「上月くん。私、今日きらりさんに誘われてDNA検査を受けてきました」


 まずは短文でいいだろう。そう思い送信する。

 返事はなかなか返ってこなかった。既読こそついているのだが……。

 怒らせてしまっただろうか? 不安が脳裏をよぎる。

 すると返事が返ってきた。


「そうですか。母が迷惑をかけて本当に申し訳ありませんでした」


 私はすぐに返事を書いた。


「いえ……それでものは相談なんですが、上月くんも一度DNA検査を受けてみませんか? 私、上月くんとの相性が気になるんです」


 返事はすぐに返ってきた。時間がかかるものかと思っていたので意外だった。


「それは……少し考えさせてください」


 それはそうだろう。あんなに唾棄するような目でDNA教のパンフレットを見ていたのだ。きっと上月くんにも思うところがあるのだろう。

 私は受けてもらえなくてもしょうがないと割り切ることにした。


「はい。ではまた学校で!」

「うん。それじゃあまた!」


 そうして私は上月くんとのメッセージアプリでの会話を終えた。

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