15 遊園地デート
運動会を終え、私は上月くんと一緒に帰ることにした。
「運動会お疲れ様でした……!」
「はい。お疲れ様です」
上月くんは挨拶を終えると、続けて言った。
「そのもし今週末空いてたらなんですけど、デートなんてどうですか?」
上月くんは恥ずかしそうに頬を掻いた。
「はい? デートですか?」
「いえ、嫌なら別にいいんです!」
別に嫌というわけではない。ただ驚いただけだ。
私達がしているのは交際ではなく、あくまでも交際契約。
だからこうしてデートにまっすぐに誘われるとは思っていなかっただけだ。
「いえ、別に嫌ということではなく……」
「本当ですか? じゃあ今週末、母に貰ったチケットがあるので遊園地になんてどうでしょう?」
「お母さんから貰ったチケットですか……良いですね。それでは遊園地へ行くということで……!」
私達は約束を交わし、学校最寄り駅にもついたので今日はそれで別れることにした。
∬
遊園地デート当日。
上月くんの到着を新宿駅で待ちながら、私は一人そわそわとしていた。
「もしかしなくても本当の意味で初デートですね……!」
1年半前の田中くんとの初デートが思い出されたが、あれはノーカウントである。
それ以降もカフェでお茶する程度はあったが、本格的なデートは未経験だ。
これは上月くんとの初デートというだけではなく、私にとっても初めてのデートらしいデートなのだ。
自分で今日のコーディネイトを確認する。
赤と白のチェックのシャツに黄緑色のビッグサイズなプルジップパーカー。それに黒のロング丈のコーデュロイ生地を使った花柄スカートを合わせている。靴は遊園地内でかなり歩きそうだったので黒のスニーカーだ。
変なところは無い……はずだ。
「お待たせ……! ごめん待たせちゃったかな」
「いいえ、私もいま来たところです」
中央東口改札前で上月くんと合流した私達は京王線へと乗り込んだ。
調布で一度乗り換えること25分、そしてバスに乗り換え、私達は遊園地へと到着した。
入場口で上月くんがワンデーフリーパスのチケットを2枚提示する。
それがなければ高校生でもなんと一人6000円もの出費をするところだったらしい。上月くんのお母さんに感謝だ。
入場口を抜けると、上月くんが私へと話しかける。
「せっかくだし、なにかアトラクションに乗りましょうか?」
「はい。そうですね」
私が簡潔にそう答えると、上月くんが「定番のジェットコースターなんてどうでしょう?」と提案してきた。私は「乗りなれていいませんがそれでもよければ」と返事をすると、「ジェットコースターに乗りなれてたら怖いですよ」と上月くんが笑う。
私達はジェットコースターに乗ることに決めた。
私と上月くんは列に並ぶと、私は家族構成についての会話を始めた。
聞いてみたかったのだ。
「上月くんはご兄弟はいらっしゃらないのですか?」
「あぁ……うちは一人っ子なんです、藤堂さんは?」
「はい。私も一人っ子です。それに父と母の3人家族です」
「ウチは父と母におばあちゃんが一人いて4人家族です」
上月くんちにはお祖母ちゃんが一人いるらしい。
初めて聞く情報だった。てっきり3人家族かと思っていた。
「おばあちゃんと言うと父方でしょうか? それとも母方の?」
「えっと母方のおばあちゃんですね。元々上月総合学園は母方の曾祖母の家系で学園の事業を始めたんだそうです。ですからいま学園長をしている父が婿でウチに入ってきて、それで僕が生まれたって形です」
上月くんが詳細を説明してくれる。
「へぇ……学園長はお婿さんだったのですね」
「はい。それで父も祖母には頭が上がりません」
そう言って笑う上月くんはなんだか楽しそうだった。
「では下月さんは……?」
私はあまり話題に出したくはなかったが、都恋ちゃんのことも聞いておくことにした。
「都恋も母方の叔母の子ですね……」
「なるほど……なんだか突っ込んだお話を聞いてしまい申し訳ありません」
「いえ、良いんですよ。一応僕ら契約とはいえ結婚を前提としたお付き合いをしてるわけですから、それくらいは聞いてもらって全然構いません」
上月くんが「と言ってもあまり面白い話でもないですけど」と苦笑する。
そんな話をしながら列に並んで待つこと20分。ついに私達の番が回ってきた。
私達にはなんと最前列が回されてきた。
乗り込み、シートベルトなどの安全器具を取り付ける。
「まさか最前列に乗ることになるとは……変な声が出たりしたら申し訳ありません」
「いいですよ、気にしないでください。絶叫系マシンでそうなるのは当然ですから」
安全器具のチェックに係員がやってくる。
そして暫くして、コースターが動き出した。
最初の下り坂。
「くっ……!」
私は声が出るのを懸命にこらえた。
上月くんはと言えば、「わああああ!」と盛大に声を上げていてとても楽しそうだった。
そして数分間の乗車を経てジェットコースターが終わり、私はほっと安堵する。
なんとか変な声を上げることなくジェットコースターを乗り切れた。
緊張した後だからか、妙に喉が渇いた。
「私、飲み物を飲みたいと思うのですが、上月くんは?」
「あ、じゃあそこの売店で休憩しますか?」
「はい。そうしましょう」
私達は売店で飲み物を買い、しばしの休憩となった。
そして次はどのアトラクションに行こうかという話になる。
「また絶叫系というのも芸が無いですよね。かといってあからさまに子供向けなのもどうかと思うし……」
上月くんはあーでもないこーでもないとアトラクションを吟味している。
私はといえば、一つのアトラクションに興味を奪われていた。
「上月くん、もしよろしければ次は占いの館なんてどうでしょうか?」
「占いの館ですか?」
私がパンフレットを指し示す。
「へぇ、こんなのもあるんですね。良いですね行ってみましょう!」
上月くんが賛成し、次の目的地が決まる。
私は立ち上がると、上月くんの腕を取った。そして腕を組む。
「せっかくのデートですから……構いませんか?」
「はい。その、藤堂さんがいいなら……!」
緊張した面持ちでそう答える上月くんに少しだけ笑ってしまう。
そうして私達は占いの館へと行くことになった。
占いの館は真っ黒な布で覆われたテントのような外観をしている。中には4ペアほどが入れるようで、交代制となっているようだった。
私達は5分ほど並び、そして私達の番がやってきた。
中へ入る。
すると暖色系の明かりを灯したランプが置かれ、テント内にはお香のような物の匂いが漂っている。雰囲気は完璧にイメージする占いの館のそれだった。
水晶玉が置かれた席の向かいに座る中年の女性に「どうぞ、おかけください」と案内され、私達は腰を下ろした。
「それで……どういった占いをご所望でしょうか? タロット、水晶、カードと3種類ありますが……?」
問われ、上月くんと顔を見合わせる私。
「上月くんが決めてください」
「それじゃあタロットで……!」
「かしこまりました……それでは……」
中年の女性が卓上にタロットカードを配していく。
そしてそれをぐちゃぐちゃにシャッフルするように言われたので二人で従う。
十分混ざったと思われたところで中年女性がそれを山にすると、裏返しのまま横に開いていく。
「それでは1枚だけカードを選んで横にめくってください」
言われ、私と上月くんは再び顔を見合わせる。
「今度は藤堂さんがどうぞ」
「はい。では……こちらを」
私が向かって左端のカードを選びペラリと1枚横にめくる。
出てきたカードは、一人の男の絵だった。それも逆さまになった男の絵だ。
タロットカードには「The Hanged Man」と書かれている。
「ハングドマン……?」
私がそう呟くと、中年の女性がタロットカードの解説を始める。
「正位置のザ・ハングドマン。吊るされた男です。
このカードは端的に申し上げますと自己犠牲を現しています。
近々お二人に縄で吊るされるように身動きできない状況が訪れるでしょう。
しかしそれを乗り越えれば、かけがえのない何かを得られるかと思います……」
女性がタロットの解説を終え、「以上で占いは終了となります」と告げた。
私達は言われ、占いの館を出た。
「ハングドマン……自己犠牲ですか……。心配ですね」
私がぽつりと呟くと、上月くんが「当たるかどうかも分からないしあまり気にしないでおこう!」と言うので、私もそれに従うことにした。
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