9 パートナー提出
朝。教室へ入って早々に文音に捕まった私。
「で? 昨日は敢えて聞かなかったけど、誰を捕まえたの碧」
文音はとても楽しそうに聞いてくる。
「それは……内緒ですよ?」
「内緒って言っても舞踏会へ出るんだからバレるでしょ?」
「それはそうですが……」
あまりことを荒立てたくないのだ。
だからそっとしておいて欲しい。
「で? 誰なの?」
「はい。その……上月零一さんです」
私がそう意を決して言い放つと、文音は「はああぁああぁ!?」と叫び声を上げる。
「上月ってあの上月……?!」
「はい。上月総合学園の上月です」
「ちょっと待って、どういうこと!?」
私はどうしてこうなったのか一部始終を文音に話した。
「へぇ……そっか、矢張さんと上月くんは同じクラスだっけか」
文音は推理するかのように自身の顎を右手で掴む。
「はい。それで紹介して頂きました」
「でも本当に相手がいなかったの?」
「はい。そのように伺っていましたが……しかし……」
「しかし……?」
文音が訝しむような目線を私へと向けたとき、「はーいホームルーム始めます」と担任の女性教諭が教室へと入ってきた。
「まず始めに、舞踏会の招待状の提出部分を持ってきている人がいたら提出してください。物が物だから一人ずつ順番に持ってきてね」
女性教諭がそのように指示。
舞踏会の招待状の半分に上月くんの名前を記載したものを家で用意してきていた私は、順番が来てすぐに担任の先生に提出した。
「……あら良かったじゃない藤堂さん、玉の輿ね。心配していたのよ」
上月くんの名前を確認したらしく担任の先生が小声で微笑む。
「はい。ありがとうございます」
ペコリとお辞儀をして祝福に答える私。
担任の先生も一応は私に相手がいないことを心配してくれていたらしかった。
その節は大変ご心配をおかけしました、ですが私は大丈夫です。たぶん。
下月都恋ちゃんの存在が再び脳裏をよぎる。
しかし相手は一年生だ。
私達三年生のように単位という切羽詰まった事情があるわけではない。
だから上月くんも私を優先してくれるはずだ。
そう思い直し、私は自分を勇気付ける。大丈夫。大丈夫なのだ。
そうして朝のホームルームが終わり、私は上月くんへメッセージを送った。
「今朝、舞踏会の招待状のお相手を記載する部分を提出しました。よろしかったでしょうか?」
メッセージを送ると、さきほどの話の続きをしろとばかりに文音が言った。
「で? しかしってなによ碧」
「しかし、どうやら上月くんには下月都恋ちゃんという後輩と一緒に行くような話をしていたらしいのです」
「はい? それじゃ碧は一緒に行けないってこと?」
「いいえ、下月さんから一方的に話をしていただけで上月くんは了承していなかったらしく……」
「じゃあ碧が一緒に行くってこと?」
「はい……恐らくは……」
文音は何とも言えないといった様子で、「訳分かんない」と言った。
すると上月くんから返事がきた。
「はい。大丈夫です。僕も今朝、藤堂さんの名前を書いて提出しました」
良かった。上月くんはやはり私を選んでくれていたらしい。
私は「大丈夫だったようです……私の心配しすぎだったようですね」と言いながら文音にスマホ画面を提示した。
食い入るようにスマホ画面を見る文音。
「そっか……! じゃあ碧が一緒に行くってことね!」
「はい。そのようです」
「良かったー。碧、あの衣装見たらきっと上月くんも驚くよ!」
「そうでしょうか?」
「うんうん。そうに決まってるよ! あの衣装めっちゃよく出来てて綺麗だったし!」
文音が自信満々で私の衣装の出来を褒め称えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます