8 舞踏会の衣装
その日の夜。夕食を終えた後。
「先程は都恋が失礼して申し訳有りませんでした。舞踏会楽しみですね。衣装は用意されていますか? もしまだでしたら、今度の日曜日に一緒に買いに行きませんか? あとこちら友達追加よろしくお願いします」
というチャットと共に、メッセージアプリの友達追加リンクが上月くんから届いた。
それに私は、
「いえ、私は大丈夫ですのでお気になさらず。衣装は母が用意してくれていますので、もうすぐ完成するはずです」
と返し、友達追加を実行。
直にメッセージアプリから「友だち追加ありがとうございます。衣装は大丈夫なんですね、良かったです。ドレスが作れるなんてお母さん凄いですね」と返事が返ってきた。
その返事を見て、
「そうだ。母へ衣装の進捗を確認しておこう」
そう思いたち、私は自宅の1階へと下りた。
1階では母が絶賛作業中のようだった。
「お母さん。私の衣装、進捗どう?」
「あぁ碧! ちょうど良かった。いま完成したところよ」
「本当?」
「えぇ……ほら着てみなさい」
言われ、私はそのオフショルダーの淡いピンク生地のドレスを着てみることにした。
「ちょっとお父さん、こっち来ないでよ。碧が着替えるんだから」
母が父にそう言いながらドアを閉めると、父の
「どうでしょうか?」
着終わって、私は母へと向き直る。
淡いピンク地には花柄の刺繍が白い糸で施されていて可愛らしい。
とても素人の出来には思えず、母の技術力の高さが垣間見える。
「うん。綺麗よ碧……! サイズはどう?」
「……調度いいみたい。でも……スカート少し短くない?」
私が膝上のスカートの長さを気にする。
「そんなことないわよ。大体碧、ダンスなんて踊ったこと無いでしょう? それなら踏んでしまわないようにこれくらい短いドレスの方が良いに決まってるわ!」
「そうかな……まぁ確かにそうかもしれないけれど」
私が母の言い分に納得していると、父がリビングのドアを叩く。
「どうぞー」
と母が答え、父がスマホを持ってやってきた。
「ほら碧、写真取ってあげるから。いやぁ綺麗だなぁ~」
「もうお父さんやめてよ」
私はポーズをするでもなく、父にパシャリパシャリと数枚の写真を撮られた。
「お父さん、本番はメイクもするんだからこれくらいにしときましょう」
「分かった分かった。碧、写真送っておくから」
母が父を窘め父がキッチンへと去っていき、私はようやく撮影会から解放された。
私がドレスを駄目にしてしまわないように慎重に脱いだ頃、文音からメッセージが届いた。写真付きだ。
「へへ、どうかな碧?」
という一文のみが添えられている。
どうやら幼馴染のお兄ちゃんと買ってきた衣装を自慢したいらしい。
ドレスを着た文音の姿があった。
「青のレースドレス、すごくお似合いです。綺麗です文音。
私も衣装が完成しました。それと相手も一応ですが見つかりました」
私はそう返すと同時に、父がたった今送ってくれた写真を添えた。
しばらくして文音から返事が来る。
「おぉー凄いじゃん。碧のお母さんマジで衣装作り上手。
刺繍なんてとても繊細で綺麗! 碧にとっても似合ってる……!
綺麗だよ碧……! ってか相手見つかったって本当!? おめでとう碧」
私はそれに「へへ、ありがとうございます」と返した。
私は上月くんにも衣装が完成したことを伝えようかと思ったが、しかし下月都恋さんの姿が脳裏をちらりと掠めた為、送るのはやめておくことにした。
「当日になってやっぱりキャンセルしますなんてことにならないと良いのですが……」
私がそう呟くと、母が「なに? 相手が見つかったの?」と心配そうに私に聞いてきた。
「うん。一応は」
「そう……! 良かったわ。この時期になっても彼氏出来ないんだもの碧。心配してたのよ」
母が心底心配そうにそう口にし、「で? 相手はどんな人なの?」と聞いてきた。
「上月零一さんと言って、上月総合学園のご令息です」
と簡潔に答えると、母が「えぇ!? 学園のご令息!? 本当なの碧!?」とびっくりして私に問う。
「うん。でもとっても丁寧で誠実な人だよ」
私は第一印象を語る。
そう……下月都恋ちゃんの問題さえなければとても誠実な良い人だったのだ……。
「そう。玉の輿……頑張りなさいな!」
私の不安をよそに、母が嬉しそうに私の背中を軽く叩いた。
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