7 突然の乱入者
臨時ではあるが私は交際相手を獲得した。
そうして暫くの間、コーヒーを飲みながらお互いの趣味についてでも談笑をしようと思った矢先のことだった。
「あー! 見つけましたわ!」
という小さな声が店のガラス越しに聞こえた。
見れば、上月総合学園の制服を着た、茶髪ロングで頭の上にカチューシャを乗せた女の子が、私達を指さしていた。
女の子はそれだけ言うと、店内へと入ってくる。
そして私達の席の目の前に立つと言い放った。
「見つけましたわ零一さん! 探したんですよ!!」
大きな声で上月くんの名を呼ぶ謎の女の子。
「
上月くんは気まずそうに女の子の名前らしきものを口にした。
「零一さん! 今日は一緒に舞踏会へ行く時の衣装を買いに行ってくださると約束したはずです!」
「いや……それは都恋が一方的に決めたことだろう。僕は行くなんて一言も……」
「またそんなことを言って! 恥ずかしがらずとも良いではないですか……ところで、こちらの方は……?」
都恋と呼ばれた女の子が私を一瞥する。
舞踏会へ行くときの衣装を一緒に買いに……? どういう関係だろうか。
私が嫌な予感に目をすっと細めて上月くんを見やるが、上月くんは都恋さんの方を見て困惑しているようだった。そうして口を開く上月くん。
「えっと……僕と一緒に舞踏会へ行ってくれることになった藤堂さん。藤堂さん、こちら親戚の
「……初めまして藤堂碧です」
私は上月くんに紹介され、座りながらではあるが軽く頭を下げた……のだが。
「はい? もう一度伺ってもよろしいですか?」
と都恋ちゃんが私達を見た。
「だから……一緒に舞踏会へ行ってくれることになった藤堂碧さんだよ」
「一緒にと言うと、零一さんと一緒にですか?」
「うん……」
上月くんが恐る恐るといった表情で答える。
「……」
都恋ちゃんは固まってしまっている。
しかし十数秒そうしてようやく硬直が解けた。
「どういうことですか?
「だからそれは都恋が勝手に決めてたことで、僕は一度も行くと言った覚えはないって……」
「ではこの方と一緒に行くと……そうおっしゃるのですか零一さん!」
「うん……お互いに相手がいなくて困っていたところを、クラスで仲良くして貰っている矢張さんって方に紹介して貰ったんだ」
上月くんが事の経緯を話す。
「相手がいない……? それは嘘ですわ零一さん。私と一緒に行くと……!」
「だからそれは……! 都恋が勝手に言ってたことだろう! 舞踏会への出席は遊びじゃないんだ! 本当にお付き合いするってことなんだよ! それをただの親戚の都恋と一緒にってわけにはいかないだろう!」
上月くんが少しだけ語気を強くする。
「ただの親戚……!」
それだけぼそっと声に出すと、都恋ちゃんは今度は私をきっと睨みつけた。
「藤堂碧さんでしたか……? 譲って頂けませんか零一さんを」
「……都恋! 何言ってるんだ! 藤堂さんに迷惑だろう」
「だって……! ほら零一さんにコーヒーまで飲ませて……! 零一さん大丈夫なんですか? こんな女じゃなくて私と一緒に行きましょう! そうすれば零一さんのケアだって見事に果たして見せますわ……!」
都恋ちゃんは必死にそう言う。
しかし、コーヒーを飲むと何か問題があるのだろうか?
「このコーヒーは僕が自分で好きで選んだもので藤堂さんには関係ないだろう! それに都恋にケアして貰わなくたって僕は立派にやっていけるって! 最近は調子もいいんだ! コーヒーの一杯や二杯は大丈夫さ……!」
豪語する上月くんが自身の胸の辺りをパンパンと叩く。
「ごめん藤堂さん。舞踏会の話はまたチャットルームで! ほら行くぞ都恋」
「はい。お待ちしています」
「ちょっと待ってくださいな! まだ話は済んでいませんわ!」
「いいから……帰るぞ!」
上月くんが都恋ちゃんを強引に引っ張り店から出ていき、私は一人ハンバーガーショップへと取り残された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます