2 コンキン!
こんきん法の成立及び施行は、私達学生に取ってみればいい迷惑である。
しかし法律を作っただけで、それではいおしまいというわけではなかった。
「そう言えば碧。このアプリ入れた? 今日からサービス開始だよ」
隣を歩く文音が私にスマホ画面を見せる。
政府公認マッチングアプリ――コンキン! その画面が私の視界に入った。
「コンキン! って名前なんとかならなかったんですかね」
「あー確かに、ちょっとかっこ悪いよね」
私の言にうんうんと頷く文音。
「それより! インストールしちゃいなよ!」
文音に推され、スマホを開く私。
ストアトップで紹介されていた日本政府公認のそれを開くとインストールを開始。
あまり容量が多くないアプリだったからかすぐにインストールは完了した。
画面を開くと、マイナンバーカードと学生証の写真を取り込むように言われる。
「写真を撮るのですか、面倒ですね。あとでやります」
「うんじゃ、私登録終わってるし、ひとまず私の画面見る?」
「はい。よろしくお願いします」
遅刻ギリギリかもしれないのにこんな事をやっていて良いのかと思わなくはない。
しかし私は文音の提案に乗り、彼女のスマホ画面を見た。
「既に彼氏彼女がいるのは、ウチのクラスだとこういう感じみたいだね」
文音がそんな事を言って画面を見せてくる。
出席番号順に並んだリストには、既にパートナーが居ることを示すらしきハートマークがついている生徒がちらほらといた。
そしてスワイプすると隣のクラスへとその情報が遷移する。
「自分のクラスだけでなく他のクラスまでパートナーがいるか分かるのですね……」
「しかも同学年だけじゃなくて先輩も後輩も見放題だよ。まぁさすがにマイナンバーカードと学生証の両方を取り込んでるだけあって、学内だけとはいえ凄まじい情報だよね。
政府の本気が伝わってくるって感じする。よくやるね政府も」
政府のやる気を褒める文音。
私はと言えば「もうこんなにお付き合いしている方達がいるのですか!?」と同級生や先輩、後輩の恋の進展ぶりに驚いてしまっていた。
その驚きに文音が「6割ってところかな? 凄いね」と淡々と感想を述べる。
「政府や学校はどのように皆さんの情報を把握しているのでしょうか?」
「は? 何言ってんの碧。この間、パートナーについて書けって言われたじゃん」
「もしや学校でやった電子アンケートのことですか?」
「そうそう、それそれ」
私は相手も居なかったので相手なしにチェックを付けただけで終わってしまったあのアンケートの結果がこんなところに反映されているのか……!
「まさかアプリに使われるデータだったとは……」
「そだねー。でも正式登録後はアプリからも情報更新出来るみたいだよ?」
自身のプロフィール編集画面へと遷移した文音。
画面には文音が手芸部であることなどの情報のほか、身長158cmと身長まで記載されている。文音は「さすがに体重までは記載ないねー」と笑う。
私が「体重まで記載する羽目になっていたら死にたいです……」と言いつつ学校の校門を越えた。
「他にもほら、他校の学生や社会人とのマッチングでも一応使えるみたい……。学外以外のデータを見るためには各々の認証コードを入れる必要性があるってさ」
「なんと……学外まで対応しているのですか!?」
私が再び驚きつつ下駄箱から上履きに履き替えると、「まぁ認証コードなしじゃ使えないかー後で先生に聞いてみよー」と文音が言う。
「文音は学外にパートナーを?」
「あー、うん。まぁね」
と恥ずかしそうに文音は舌をぺろっと出した。
∬
文音と共に遅刻せず登校した私は、朝から始業式へと出席することになった。
体育館に集められた生徒たちが今か今かと学園長の登壇を待っている。
「ただいまより、始業式を始めます。
若い女性教諭のアナウンスが流れ、学園長が登壇していく。
「皆さんおはようございます。今年度をこうして皆さんと始められたことを嬉しく思います。そしてこの挨拶で私が第一に話しておきたいこと、それは本日からの婚姻等機会均等法の施行に関してです」
初っ端から学園長はその低い声でこんきん法に触れてきた。
「皆さんは恋愛くらい自由にさせろと言うかもしれません。
しかし婚姻等機会均等法は何も皆さんの恋愛の自由を縛るものではありません。
むしろそのサポートをしようという素晴らしい法律です。
既に知っている皆さんもいるかもしれません。政府公認のマッチングアプリなどが皆さんには提供され恋愛の促進が図られると共に、恋愛そのものは個人の裁量に委ねられています。
そう、世は正に皆さんの為の大恋愛時代……! 我々学校側からもできる限りのバックアップをさせて頂くことをお約束しましょう。それでは短いながら、私からの挨拶はここまでとさせていただきます。上月総合学園学園長、上月
学園長はそのように豪語し演説を終え、体育館の壇上から下がった。
恋愛の自由を縛るものではない。というのは推進派が良く口にするお題目だが、現実には私達高校生は卒業の為の単位として、パートナーを伴った特別授業を強制されている。
その時点で個人の裁量が許される範囲は大きく限定されているのだ。
学園長は推進派の綺麗事を言っていると私は思った。
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