第十二話∶天才少女の見る絶望
キョウタが無理攻めを行っていたとき、実は内心ネロは焦っていた。世界の理の外からの攻撃。理の外故に世界の欠片たる龍は容易く防げるが、もし身体に届いてしまえば外法が蝕み死をもたらす。まさしく危機一髪の状況だった。だから、キョウタ相手に集中していたネロはアストルムたちの戒めが無意識のうちに緩んでいるのに気づかなかったのだ。ネロが圧倒的強者であるからこその油断であった。
「おらぁっ!」
アストルムとアベイルは早々に剣を捨て、魔力を最効率でブチ込むために拳で龍に殴りかかっている。だが怒理流によって限界まで引き出された無尽蔵の魔力も、しかし魔力障壁なくとも世界の一部たる龍には実はいくらの痛痒もなかった。ネロはただ、衝撃を受けただけなのに痛いと思っているが、これもまた圧倒的強者ゆえ。痛みとは脳の発する危険信号。故に危険などこの世界にほとんどない存在は痛みを知らないのだ。今ネロが受けているのは実は痛みでも何でもない。苦しみはそこに介在せず、意気を削ぐ真の苦痛などとはかけ離れたものだ。
「っ!」
殴りかかる男二人、「痛がる」龍。だがそこにはあまりにも絶望的な差があるとミナだけは気づいていた。
そもそもの話。ミナは龍を恐れていた。生まれつき賢く、また世界の理を見通す特異な目を持つ彼女は、殆ど全てがわかっていた。人間の持つ可能性も、その限界も。それでも。勝てないと思っていた竜をアベイルが殴り倒してくれたあの日から、彼は、人間は勝てるとどこか勘違いしてしまったのだ。
だが、しかし。龍に与えたダメージの程もわかるが故に、真に龍には勝てないと悟ってしまったのだ。
「あ………」
龍はついに嫌気が差したのか、男二人を魔力の奔流でねじ伏せた。ブリュンヒルドのとっさの治癒によりなんとか人の形を保てたが、それでも押しつぶされるかのような圧迫が加え続けられていた。
「無理だ……」
ふと吐いてしまった弱音は、倒れ伏していたキョウタに届いた。
「無理!?何を言ってる!僕と妹に、無理も不可能もあるわけ無いだろうが!!!」
「「「「えっ」」」」
完全復活。自滅したはずのボロボロのキョウタはしかし全身からダラダラと血を吹きつつもなおその目は兄妹の道を阻む敵を睨みつけていた。
【何を……】
「僕と妹の全てを語ろう。それは宇宙創生より始まった絆、定められた運命。切り開かれるべき地平、禁忌の先をも彩る色彩。」
突如謎の妄言を吐き始めたキョウタに世界の全てが注目した。
「見果てぬ夢の先の先、三千世界の神をも殺す最大限の愛情。比翼連理に飽き足らず、二心合一二身同一。」
そして、世界の理を知る者たちは驚いた。この言葉には何の意味も無いと。ただの事実の羅列であり、そして何の意味も無いのに関わらず、彼ら兄妹は世界の理を越えようとしていた。
「僕/私たちを阻むものは、那由多の先にも存在しない!」
矛盾状態。キョウタは今やサヤカであり、サヤカは今やキョウタであった。兄が妹で妹が兄。矛盾した状態がこの世界に顕現したのだ。
【?????????????】
「?????????????……でも、これなら……」
ネロとミナはともに混乱した。だが、これは勝機。世界の理を超えた今なら、龍に届く。ミナは確信した。
「あああああああっ!」
そして兄妹はその一撃を龍にブチ込んだ。
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