第四話∶師匠

騎士、血染めの朱鎧との闘いはキョウタに良い影響を及ぼした。彼は理解したのだ。自分は弱い。妹に頼る情けないヒモ兄貴だと。故に、妹を守るため彼は決意した。どんなきつい修行でも乗り越えてみせる。どんな鍛錬も耐えてみせると。

「じゃあこれも耐えられるよ?ほーら雑巾がけ千回追加ー。」

「……。修行じゃない。修行じゃなああい!」

とはいえ修行と称した雑用が1ヶ月も続けば弱音は当然出てくるのだった。


はじまりは1ヶ月前に遡る。

「ここが俺たちの故郷、武芸の家だ。」

そこは山のなか、谷を切り開いた平地に建てられた洋館だった。谷間に子どもたちの喧騒が響いて聞こえる。ここに二人はアストルムの師匠を訪ねて旅をしてやってきたのだ。

「ここには十数人の子供がいて、鍛練して武芸を学んでるんだ。」

そこには様々な鍛錬をこなす10代からそれより下の子供たちがいた。彼らはアストルムを見つけると顔をぱあっと輝かせてわらわらとよってきて、わいわいと騒ぎ出す。彼らが洋館に入る頃には、集団で団子のようになっていた。

「押すな、押すな!!」

「ハッハッハ。相変わらず好かれておるな。」

ひときわ大きい声が洋館に轟く。

「久しぶりだな、アス坊。」

「アベイル兄ちゃん!!元気そうで何よりだ。」

「そっちこそ。何、話は落ち着いてからにしようじゃないか……おい、お前ら!鍛錬にもどれ!!」

子どもたちがぞろぞろと出ていったあとで、彼は二人を案内した。

「にしても、お前が戻ってくるとは思わなかったぞ。」

「まあ、師匠に会わせたいやつがいるからな。気まずくても、その価値が有るやつだ。」

キョウタは特に照れたそぶりもせずに頷いた。別に傲慢ではなく、妹にはその価値があるから、価値を引き出すという意味なら当然だというシスコンである。そんな思考想定できるわけもないので、異世界人ということも相まってアベイルはキョウタを訝しげな目で見るのだった。やがて、三人は館を抜けると裏の洞窟へとたどり着く。そこの中から声が響いてきた。

「久しぶり。バカ弟子。武者修行は済んだの?よくかおをだせるな

「い、いえ……今日はこちらの異世界人に稽古をつけてほしくて。」

「異世界人……ほう。名前は?」

「城島キョウタです。よろしくお願いします。」

「よろしくした覚えはないよ、異世界人。まあ、いいよ。チートを見せな。話はそれから。」

キョウタは妹を構えた。

「ふうん。魔剣。たいくつ。ださい。くそ。うんち。」

「は?」

キョウタはキレた。キレて、そして

「魔力開放。消し飛ばせ。」

洞窟に向かって、ありったけの魔力の奔流を解き放った。だが。

「うるさいなあ、うん。くそだね、魔剣。」

奔流の中、悠々と女が一人歩いてきた。女は豊かな青髪とバストで背が高い。そして魔力でいまも服を消し飛ばされながらも普通に歩いてこっちに来ていた。

「あ?」

キョウタは魔力をだだ漏れにしながら、剣で斬りかかろうとする。しかし、彼は踏み込む直前で止まった。

「はー、だのあー、だの一文字しか話せないんですか?まともに喋りなさいビーム」

そんなふざけたビームが超絶と言える威力で彼を襲う。妹がそう予感したと彼は思ったから。そして彼は、全力で回避した。

「まあ。アストルムくんえらいね〜このばぶくんにある程度は叩き込めて。逃げたのに。」

「ああ、あと異世界人くん。まあ、いいよ。今のビーム回避できたから。史上最悪のカスチート、武芸チートじゃないし。本質は違いそうかな?ま、おいおい見たいね。面白そうだ。」

と女は少し愉快そうだったがキョウタは

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

と剣を侮辱した女、そして女を殺せなかった自分への自己嫌悪で頭がいっぱいだった。しかし特に女は気にせずに、

「私の名前はカエソニア。よろしくね」

と微笑みさえして見せたのだった。


そして現在に時は戻り。

雑巾がけ+1000回をこなし、何と1日で累計45000回もの雑巾がけをこなしたキョウタは何回目かもわからない疑問をカエソニアに投げた。

「何で雑用なんですか…………?」

「性根が腐ってる、そう思ってたから。結局武芸は心だからね。腐った性根なら1ヶ月は耐えられない。選別かな。まあ、意味なかったけど。」

いつもは適当に誤魔化される質問にまともに答えられたことより、一番最後の言葉がキョウタには気にかかった。

「意味ないって……?」

「だって、妹ちゃんは妹でしょ?魔剣じゃない。兄のキミを導くだけ。まあ許せる範囲の手助けしかできないし。それなら性根は真っ当だよ。」

「わかってもらえて嬉しいです。それでは、侮辱したことを謝ってもらえませんか?」

「やだよ。謝らせたいなら、私を倒してね。」

「……絶対、倒す」

「まあ、がんばって。今日からはちゃんとした鍛練もするからね。」

「はい。」

そしてようやくキョウタの鍛練の日々が始まるのだった。

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