ロビンの不意打ち

「地上のフーガ地方一帯でも……いいえこの際はっきり言いましょう。我々の祖先も悪魔の召喚は何度も試みられています。そして悉く失敗している。多くの犠牲を払ってね。実行に移す前から原因ははっきりとわかっています。あまりに魔力リソースが足りない。大陸中の人間の命を集め変換してもほぼ不可能でしょう。それだけに今の人類は魔力に乏しく数が少ない。星が丸くなる前の古の時代ならわかりませんがね」


 トニョは言葉を紡ぐことで恐怖心を和らげる。知識はひ弱な彼を鼓舞し立たせる。


「そう、失敗の原因ははっきりしているのです。あとはそれさえクリアすれば悪魔の召喚が叶う。それが我が主の考えです」

「吾輩はそんなこと望んでいないぞ!! シロくん!!」


 リチャードは声を大にして言う。


「ああ、あなたもいらしたのですか」


 ブランはそっけなく答える。


「さっきからちょくちょく会話してるのに会っていない扱い!? ちょっと冷たすぎないかい……」


 情熱が空回りしたリチャードは巨体の肩を落とす。


「ああ、でもこの感じ……落ち着くなあ……」


 すぐさま顔を上げる。


「今までのことは全部不問とする。君を縛る呪いも必ずや解いてみせる。だから……今すぐ帰ってきてくれないか」

「……」


 氷のように固まった彼女の表情に一瞬揺らいだ。

 途端彼女の全身は後ろにのけぞる。

 全員が呆気にとられる中、ロビンだけが舌打ちをする。


「ちっ、外したか」


 彼は弓を構え、矢を放っていた。


「ちょっとロビン! あんた何やってんの!」

「そうよ! 話の最中でしょうが!」


 女性陣に糾弾されるが、


「隠密スキル使ってもこれか……レベル差ってのは厄介だな」


 まるで聞いていない。


「し、師匠……」


 テオは突然の出来事に頭がついていかない。


「ロビンくん! 君ってやつは!! 説得している間に矢を放つなんて!」

「あんたにとっては大事な部下だろうが俺たちにとっては敵も同然なんだが」

「彼女は敵じゃない!」

「なあに、あの一発で仕留められるとは思ってねえよ。でも運よく怪我でもしてくれたら、あんたの望むお話だってもっとゆっくり出来ただろうぜ」

「そういうことじゃあないだろう! もしも当たっていたら吾輩は、君を──」

「俺を……どうするって」

「──今は君と争っている場合ではないようだな」


 気づけば周りには多くの魔物が集まっていた。


「なあ、裸メガネさんよ。この魔物はあんたの計らいかい」

「シロくんはそんなことしない!」

「あんたに聞いちゃいねえっての」


 ブランは周囲を見渡す。魔物の中にはドラゴンも混ざっていた。そのドラゴンはブランを見て、喉を鳴らして威嚇していた。


「いいえ、これは私の意志ではありません。我が主の計らいでしょう」

「へえ、じゃあお前は何しに俺たちの元にわざわざ姿を現したんだ? 世間話したかったわけでもないんだろう」

「そうですね。いきなり弓矢を放つような野蛮な人間と世間話なんてするはずがありません」

「……野蛮ねえ。悪魔召喚して人間を殺戮しようとしてるやつに言われたくないかな」

「……」

「おや、黙っちゃった? あんた意外と口喧嘩苦手?」

「……そうですね。今日は私の負けを認めましょう。ですが次の機会があれば再戦させていただきましょう。次があればですが」


 彼女の足元に眩しい光と共に魔法陣が広がる。


「転移魔法か!? させるか!」


 ロビンは矢を放つが、


「やめろ! 転移魔法中は無防備なんだぞ!」


 リチャードが放たれた矢を空中で掴んで止める。


「だからチャンスなんだろうが!! 止めてんじゃねえよ!」

「止めるさ! 彼女は吾輩にとって大事な人なんだから!」

「人じゃねえ!! 獣人だ!!」


 にらみ合う二人。魔法でもないのに間に火花が散る。


「ちょっと二人とも! いがみ合ってないでまずは魔物を片づけなさい!!」


 ビクトリアの怒号。


「……君とはあとでゆっくり話さないといけないようだな」

「今ここで決着着けてもいいんだぜ」

「……せいぜい端っこでつまようじでも飛ばしてるんだな。あんまり戦場でうろちょろしてくれるなよ。うっかり魔物と一緒に蹴散らしてしまいそうだ」


 そう言うとリチャードは噛みつこうと襲ってきたドラゴンの上顎を掴んで地面に叩きつけた。

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