トニョは仲良くなりたい

「うおーん! 俺はトンネル製造マンだ!」


 無限の体力を持つテオは剣を振って無邪気に氷を削っていく。

 手段としては魔法の炎で掘り進めていくほうが時間の短縮となるがトンネルが崩壊するリスクがある。そのため地道ではあるがより着実に安全な手掘りの手段を選択した。


「むう……なんだか飽きてきたぞ……そうだ、テオクラッシャーを使えば」


 悪魔の囁きをかき消すようにビクトリアが目ざとく声をかける。


「テオー。絶対にテオクラッシャーは使っちゃだめよ」

「へ~い」


 トニョが興味を示す。


「テオクラッシャー? 僕の記憶違いでなければスラッシャーではありませんでしたか?」

「スキルが変わったの。より強力になった。あいつの話だとアイアンテイルドラゴンも倒したって。そう証言する奴もいたわ」

「なんとアイアンテイルドラゴンをですか……あと、彼の武器は以前僕が渡した物と違っていますね?」

「そう。そのアイアンテイルドラゴンと戦いの最中で壊れたの」

「エンチャントして強化したはずなのですが」

「それとさ、あんた、あの剣に強化以外にも細工したでしょう?」

「おや? 鑑定されたのですか?」

「したけど……鑑定妨害されてわからなかったわ。でもあいつは言ってたわ。思ったよりも力が出ないって」

「そうですか」


 トニョはけろっとしていた。秘密を暴露されても慌てる素振りも悪びれる様子もない。


「あんた、ちょっと冷静過ぎない?」

「いえ、あなたにバレるのは時間の問題だと思ってましたから。それよりも重要なことがありますので」

「重要なこと? なによ、それ」

「勝手なマネをした僕を、あなたが許すか許さないかですよ」

「……なによ、それ」


 トニョの考えは読みづらい。言葉がわかるのにどこか通じない。


「ええ、独断で何の説明もせずにエンチャントをしましたよ。ですがそれについてあなたはどう思いますか? あなただって薄々気付いているのでしょう? 彼の身が、彼の力の根源が、危険なことに」

「う、それは……」

「あの様子だとまだ何も説明していないようですね」

「……確証がなかったから」

「あなたらしくないですね。確証がなくてもズバズバ言うのがあなたなのでは?」

「会ってから一時間も満たないあんたがわかった風に言わないで!」


 トニョは肩をすくめる。


「あなた自身もまだ……フードを被ったままなのですね」

「あんただけよ。あんたのその目が気に食わないの」

「僕の話じゃなく仲間の話ですよ。皆さんにはあなたの正体は──」

「うざい! ほんとうざい! もう話しかけてくるな!」


 ビクトリアはトニョを置いて先行する。


「やれやれ、またレディに嫌われてしまったようだ」


 トニョは変わらず笑顔のまま肩をすくめた。


「ちょっとー。あんたと言えどあたしのビクトリアちゃんにちょっかい出すのは許さないわよ」


 今度はマチルドがトニョの隣に並ぶ。


「ちょっかいなんてとんでもない。ただ仲良くなろうとしただけですよ」

「あんたデリカシーなさそうだから女を怒らせてばっかでさぞモテないでしょう」

「大勢の女性に囲まれたことはありませんが……共に歩くと決めた女性は見つけましたので」

「えっ!? その性格で結婚してる!? もしかしてもう子供もいたり!?」

「見つけはしましたがつい先日振られてしまいました」

「なーんだ、やっぱり~」

「……あなたもデリカシーのなさでひとのことを言えないのでは」

「まあ、せいぜいがんばなさいな」


 マチルドはトニョの背中を叩いて激励する。


「……そういえばジャックはどうしてんの」

「彼もエキドナに潜ってますよ」

「姿が見えないようだけどはぐれたの?」

「いいえ、意図して置いてきました。もうそろそろ単独でも50層に到達できるレベルに達してもらわないと」

「あんた、命を差し引くレベルでスパルタよね……そろそろ死ぬんじゃないの……」

「あれでも見込みありなのです。きっと乗り越えてくれますよ。ご心配ありがとうございます」

「べ、べつに、あんなやつ心配してないし! あんなやつ、ドラゴンに食われてしまえばいいんだわ!」


 次はロビンがトニョの横に並ぶ。


「……あれだ、さっきは態度悪くてすまなかった。お前は気に食わねえが一応は仲間だ。だからよ」

「あ、男のあなたとは仲良くなるつもりはありませんので」


 すたすたとトニョはロビンを置いて先に行く。


「……ふーっ……」


 置いていかれたロビンは、


「ジャックじゃねえがよ……お前、いつかぜってえぶっ殺す!!!」

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