第12話

「あれ?」

 水香さんにメールを送信されたのを確認すると、何か引っかかるモノを感じた。

……霧恵ちゃんの……住所……これって……。

 ふと、気付いた。

 霧恵ちゃんの家。

 この住所。

 見覚えというか、聞き覚えがある。

 全く同じ住所というわけではないけれど……。

 つい最近のことだったような気がする……。

「霧恵ちゃん。私、霧恵ちゃんのウチに行ったことって……あったっけ?」

「え? うーん……ないと思うけど、どうかした?」

 予想通りの返答。

 やっぱり、霧恵ちゃんの家には行ったことがない。

 だとすると、なんだろう……。

 頭がモヤモヤしてきた。

「うん。この住所……他に、どこかで聞いたことがあるような。それとも見たのかな……近くに有名な所とかがあったりするのかなぁ?」

 何かの有名スポットがあるとか、何かなんだろうか……。

 雑誌とかで見た住所なのかな……。

 携帯をバッグに仕舞い、期待を込めずに、霧恵ちゃんに質問した。

「有名な所……無いかなぁ。さっき話した、噂のマンションが近くにあるぐらいかな……後は、中学校が目の前にあるってことぐらいかな~」

「あっ! そうかぁ!」

 霧恵ちゃんの言葉を聞いて、閃めいた。

「なにっ?」

「そうだよっ!

 思い出したっ!」

 霧恵ちゃんの驚きを他所に、一人で納得した。

……そうだよぉ!翔子ちゃんの実習先だよぉ!間違いないと思う!

 興奮を隠さずに、霧恵ちゃんに詰め寄る。

「霧恵ちゃん! その中学校って、なんて名前なのぉ?」

「え~と……ギンオウ。ギンオウ中学校だけど?」

 霧恵ちゃんが身を引きながら、苦笑して、答えた。

 期待していた答えを聞くことができ、テンションが高まる。

……やっぱり!翔子ちゃんの実習先の中学校だ!……ということは……。

 脳裏にあの鮮やかな青色が過った。

 テーブルに積まれた封筒の数々が思い出された。

……あの封筒のこと……知ってるかなぁ……。

 何気ない好奇心。

 青色で統一されたラブレター。

 中学校で流行っているモノ。

 それに、ちょっとした興味があった。

「霧恵ちゃん。青い封筒のラブレターって……知ってる? 今、流行ってるみたいなんだけど……」

 高まる鼓動を抑え、トーンを落としながら、霧恵ちゃんに問いかける。

「青い封筒……ああ! あれのことかなぁ。ラブレターなのかどうかわからないけど、弟が使ってるのを見たかな~」

「えっ?! 弟がいるの?! 中学生? その中学校に通ってるんだよね?」

 思いがけない情報。

 これは色々と知ることが出来るかもしれない。

「そうだけど……そうか~。ラブレターだったのか~。封筒で手紙か~。今どき古くさい感じがするね」

 霧恵ちゃんの言う通り。

 古くさい感じがする。

 だからなのか、妙に興味が湧いてくる。

 中学生の間で流行っているモノなのか……。

 それとも、高校でも流行っているものなのか……。

 少なくとも、大学生の間では、流行っていない……と思う。

「そのラブレター。中学生の間で流行ってるみたいだけど、霧恵ちゃんは知らなかったのぉ?」

「うん。知らなかったけど、流行ってるのか~。ラブレターね~。それにしても、頻繁に書いてた気がする……」

「頻繁に?」

 自分の予想だにしなかった言葉を聞き、思わず、聞き返してしまった。

「うん。毎日ってわけじゃないけど。週に二、三回は書いてたんじゃないかな。なんせ、青い封筒と言われて、思い付いちゃうくらいだからね!」

 そんな頻繁にラブレターを送る相手。

 一人に対して?

 それとも、複数?

……翔子ちゃんに送ってたのかなぁ?

 かなり気になる。

 テーブルに置かれていた青い封筒の山。

 その中に、霧恵ちゃんの弟が送った封筒があったのだろうか……。

「そうなんだぁ。誰に送ってたのかなぁ? ……分かる?」

「流石に分からないよ~。でも、ラブレターなら、好きな人……でしょ?」

「だよ、ね……」

 率直な疑問をぶつけてみたけど、欲しい答えはもらえなかった。

 それにしても……。

……何度もラブレターを送る……頻繁に送る……。

 どういうことなんだろう……。

 何かが引っかかる。

 本当にラブレターなんだろうか?

……そういえば……翔子ちゃんが言ってたっけ……。

『ラブレターみたいなモノ』

 ラブレターではない……。

 内容がラブレターのような手紙……。

 翔子ちゃん家の大量の封筒……。

 流行り……。

 青い……。

 一体、何なのか……。

……読ませてもらえばよかったかなぁ……。

 答えが定まらないもどかしさと、少しばかりの後悔を覚えた。

「そういえば、学校に行く時間じゃないの?」

 霧恵ちゃんが携帯を開き、そのディスプレイに表示された時刻を、私に見せながら、そう言った。

……十五時……二十八分かぁ……。

 そろそろ学校に向かった方がいい時間。

「そうだね。学校に行かないとなぁ……霧恵ちゃんはこの後どうするのぉ?」

 拭えない気掛かりを抑えるように、霧恵ちゃんに質問をした。

「私は、もう少し遊んでくっ! 腕が落ちてたから、リベンジするっ!」

 霧恵ちゃんはそう言って、右手をグーにして、胸の前で構えた。

……そうかぁ……だから、早く出てきたのかぁ……。

 霧恵ちゃんが、いつも三十分以上は遊べてたゲーム。

 そのゲームで遊んでいた霧恵ちゃんが、早々に出てきた意味を、今さらながら気付いた。

「そうかぁ……それじゃあ、頑張ってね~!」

 達成感ともどかしさ……。充実感と名残惜しさ……。

 色々な気持ちが混ざった感覚を抱きながら、そう言うと。

「頑張るよ~! そっちも頑張ってねっ! いってらっしゃい!」

「いってきま~す!」

 霧恵ちゃんに手を振ると、学校へと向かった。

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