第9話

「あっ! 霧恵ちゃん! あ、あのね?」

 二時間ほどカラオケで歌った後、ゲームセンターのクレーンゲームで遊んでいた。

 霧恵ちゃんが、ストラップを上手に取ったのを見届けた時。

 ふと、思い出した。

 水香さんとの約束。

 マンションの噂。

 今日、霧恵ちゃんと会うことになった一番の理由。

 遊びに夢中になり、すっかり忘れていた。

 そして、慌てて霧恵ちゃんに話かけた。

「な、何? どうしたの? 急に……」

 私の慌て振りに、霧恵ちゃんは一瞬の動揺を見せ、そう答えた。

「あの! あの噂! マンションの! ほらぁ! 電話で話したぁ。高校の時のぉ。え~とぉ……怖い話だっけ? それ、教えて!」

「あ~……あの噂でしょ? いいよ! ……はい、コレ! あげる!」

 霧恵ちゃんは、取り出したストラップを私に差出して、そう言った。

「わ~! ありがとう! 霧恵ちゃんは上手だね!」

 笑顔でストラップを受け取り、お礼を言うと、ショルダーバッグにそのストラップを取り付けた。

「まぁね~。あ! イイ感じだね!」

 霧恵ちゃんは屈みながら、そう言って、私のバッグに取り付けられたストラップを指でツンツンと突いた。

「さてと。噂を話す前に……何か、飲み物買おうよ!」

 霧恵ちゃんはそう言って、立ち上がると、ジュースの販売機へと歩き始めた。

「あ! あったかいの、売ってるかなぁ?」

 私はそう言って、霧恵ちゃんの一歩後ろを並ぶようについていった。

「そういえば、なんで、あの噂を聞きたいの? 高校の時の話だし、今さらな感じだけど?」

 霧恵ちゃんが歩きながら半身で振り返り、そう聞いてきた。

「う~ん、ちょっとね~。あの噂の、詳しい内容を知りたいって人がいるんだぁ。だからだよぉ」

「ふ~ん、そうなんだ~……あっ! あったかいの、あるよ!」

 霧恵ちゃんが目の前の販売機を指差し、声を上げた。

「ホントだぁ。え~と……」

「コーンポタージュでしょ?」

 販売機で目当ての飲み物を探していると、霧恵ちゃんがそう言った。

 霧恵ちゃんの予想は当たっていた。

「そぉ! コーンポタージュ! 美味しいよね~?」

「そうだね~。でも、缶だと量が少ないんだよね~」

……そう!缶は量が少ない!たくさん飲みたいのに~!

 霧恵ちゃんは私に同意し、更に、霧恵ちゃんの不満に私は共感した。

「でも、しょうがないよね。え~と……やっぱりコレかな!」

 霧恵ちゃんが販売機に硬貨を投入し、ボタンを押した。

ゴトンっ!

 霧恵ちゃんが販売機から落ちてきた缶を取り出した。

 ホットコーヒーだった。

 霧恵ちゃんが良く飲んでいる缶コーヒー。

 それの温かいのだった。

「じゃあ、私はコレ!」

 財布の中の硬貨が足りなかったため、千円札を入れ、ボタンを押した。

ゴトンっ!

 販売機からコーンポタージュの缶が落ちてくると、つり銭がチャリチャリと出てきた。

「じゃあ、え~と……あそこに座って話そうっ!」

 霧恵ちゃんがそう言って、近くのメダルゲームコーナーを指差し、歩き出した。

 私は缶を脇に挟み、財布にお釣りを入れながら、霧恵ちゃんの後を追った。

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