第4話

「ふぅ……良かった……」

 更衣室を兼ねた、休憩室。

 携帯に返ってきたメールをチェックして、ホッとした。

……お泊りOKだ!

 バイトが終わったら、そのまま友達のウチに遊びに行く予定。

 今のメールで親の許しが出た。

 二歳年上の幼馴染。

 同じ学校に通う、先輩でもある。

……途中まで、水香さんと一緒に帰れそう!

 幼馴染の家は、この店からだと、私の家から反対方向。

 同時に、水香さんの家と同じ方向。

……今日は、良い事ばかりみたい!

 大学の学食では、お気に入りだったCランチが復活していた。

 バイトでは、水香さんが復帰。

 この後は、お泊りで遊べる。

 そして……。

「いただきますっ!」

 携帯をテーブルの上に置き、両手を合わせて、そう言うと、箸を取った。

 目の前の塩豚丼。

 私も大好きなメニュー。

 葱とご飯をほど良くかき混ぜて、お肉と共に口に運んだ。

……美味しい~!幸せ~!

 食べてる時は幸せ。

 寝てる時も幸せ。

 大好きな人たちと一緒にいることも幸せ。

……今日はハッピーデーだぁ!

 心でそう思い、二口目を口に運ぼうとした時。

「……あれ?」

 部屋の外が、騒がしいのに気が付いた。

……何だろぉ?

 箸を置いて、ドアに近付くと、騒々しさが高まり出す。

 ドアに耳を近づけ、様子を探る。

 人の声。

 足音。

 店の密度が増しているような気配。

……もしかして……。

 そっと、ドアを開けてみる。

「うわぁ……」

 半開きになったドアから、顔だけ出して、覗いた。

……スゴイことになってる!

 店の中が活気に満ち溢れていた。

 さっきまで閑古鳥が鳴いていたのに、いつの間にか満席状態。

「あっ」

 咄嗟に顔を引っ込めて、ドアを閉めた。

 近くの席に座るお客さんと目が合ってしまった。

……どうしよう……まだ休憩中だし……それに……。

 テーブルに置かれた塩豚丼を凝視した。

……一口しか食べてない……。

 後悔が頭に過った。

 気が付かなければ良かった。

 携帯を弄らずに、先に食べておけばよかった。

……やっぱり……手伝った方がいいよね……でも……。

 ドアを眺め、悩む。

 何か良い方法はないのか。

……手伝おう!それしかない!

 考えても、何も浮かぶ気がしなかった。

 みんなが頑張っているのに、一人だけ呑気にご飯を食べてる場合じゃない。

……水香さんに負担は掛けられないしね!

 決心すると、ドアノブを掴んだ。

 そのままテーブルを振り返り、その上にあるモノを一瞥した。

 湯気を漂わせ、食欲をそそらせる匂いを部屋に充満させていた塩豚丼。

……さて……頑張ろっ!

 一瞬の躊躇の後、ゆっくりとドアを開けて、みんなの加勢に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る