第5話
学校を出て左に曲がる。私とユウキはこっちだけど、ヨシオカも一緒だった事にちょっと驚いた。
「いや、じゃなきゃ最初から誘わないから」
ユウキにそう言われて、そりゃそうだって納得した。ユウキとヨシオカは体育委員で一緒だった一年の時は結構二人で帰ってたんだって。ズルいぞヨシオカ。
道を真っ直ぐ行って突き当たったら右。更に真っ直ぐ進むと今度は十字路が見えてきた。私はここを真っ直ぐ。ユウキは左だ。立ち止まってヨシオカを見ると、
「あ……俺もコッチ」
そう言って指差すのはユウキと同じ左の道。
「き、貴様ーっ! まさか最初からユウキと二人きりになる魂胆かー!」
「ち、違うから! 俺達は電車通学なんだから、一緒になるのは仕方ないだろ?」
んなこた分かってんだよ、ヨシオカさんよぉ。私はプクってほっぺを膨らませる。
「まぁ、そう言うなって。なぁ?」
ユウキが怒る私の髪を指で触って、私の耳に掛けた。その仕草がもう神! イケメン!
「うぅ、うーん……ユウキがそう言うならいいよ。ヨシオカはちゃんとユウキを守りながら帰ってよ?」
「分かった」
何から守るんだよとか言わないでバカ真面目に頷くヨシオカ。こう言う所は結構好きかも。
「また明日ねユウキ! あとヨシオカ」
「また明日な!」
ユウキが手を振る。ヨシオカはペコリと頭を下げた。私は両手でおっきく手を振って、二人が見えなくなるまで十字路に立っていた。
……だって、見られたら困るもん。
二人が見えなくなったら、私はいつも通りに真っ直ぐの道を進む。最初は住宅街だけど、段々家が少なくなっていって左側に広めの空き地が見えてくる。
空き地の前で立ち止まると、右見て左見てもっかい右見て、私は自分の左目に人差し指を突っ込んだ。カチッて音が頭の中に響く。その瞬間にただの空き地だった所に、円盤型の宇宙船が現れた。
あ、現れたは間違いね。最初からあったんだけど、地球では目立つからステルスモードにしてんの。そんで左目の中にアンチステルスレンズのスイッチが入れてあるんだよん。
空き地に入った途端にスキャン光線が四方八方から放たれて私の体をスキャニングする。そんな事しなくても私は私なんだけどなぁ。それで漸くタラップが降りてくる。それを上がると勝手に扉が開くんだ。これは便利!
「ただいまー」
中に声を掛けると返事があった。パパだ。
「ピャー、今日も学んできましたよっと。パパは? 今日は何してた?」
私がそう言うとモニターの前に座ってたパパが振り返った。私とおんなじ青い目にピンクの髪。と言うか、これが私達のデフォだから、母星に帰ったら大体みんなこうだけど。
私が帰って来た途端に、困ったような顔して文句を言うパパ。もう、いい加減地球の言葉も覚えてよ! リスニングは出来るのにスピーキングは出来ないなんて変なの。それでも私は絶対地球語で喋るけどね。だってユウキの前で宇宙語を話す訳にはいかないもん。
「……え? 何? あー……ねぇ、侵略はまだ早いって。……うん、うん……分かってる。もう地球時間で半年過ぎたね。私が地球で遊びたいって言ったから、その間は侵略しないって約束してくれたんだもんね。でもさ、ちょっと聞いて?」
マジトーンでパパに一歩詰め寄った。私だって大事な時は真剣になるのだ。
「パパさ、地球を侵略したらすぐにテラフォーミングしちゃうでしょ?」
パパが頷く。そう、惑星を侵略するってそう言う事なんだよね。これが普通、分かってる……分かってるけどぉ!
「私まだ全然地球を遊び尽くせてないの! やってみたい事とか毎日増えていくし、行けてない場所もまだまだあるし、それに……」
おっとっと危ない! うっかりユウキの事言いそうになっちゃった。娘が地球人に恋したなんて知ったらパパ怒り狂って直ぐにでも地球侵略しちゃう。
それにしても今日の私は口が軽い。さっきも自分から宇宙の話とかしちゃって、もし私が地球人じゃないってバレたらヤバいのに。もう今日は余計な事言わないように気を付けなきゃ。私はグッと顔に力を入れた。
「とにかくまだダメ! いいでしょ?」
ズズイと顔を近付けるとちょっと驚いた風に目を見開くパパ。それから笑って分かったって頷いた。
ごめんねパパ。でも私、まだまだユウキと一緒にいたいんだ。大親友で想い人、私の大切なユウキ……
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