第2話
この学校のイイトコロ、図書館を使う人が少ない。私が図書館の引き戸を音を立てて開けても誰も怒らない。本を借りに来てる人はゼロ。図書委員はヘッドホンしてうたた寝中。やる気が無くて大変よろしい。図書館の中に入って棚の森、と言うか林をウロウロする。勉強でもするつもりだったけど、私の足は窓際の小さいラックに吸い寄せられてる。そこを埋め尽くすカラフルな背表紙、絵本。私の一番大好きな本達。どれにしようかな、って言いながらテキトーな一冊を取り出す。パラパラ捲るとピンクの小さな兎が笑っていた。うん、やっぱり絵本は可愛くて癒される。来年の選択授業は絶対幼児教育を選ぼう。そしたら授業中でも絵本が読めるらしいし。来年、私はまだこの学校で、ユウキと一緒に勉強できるのかな?……
ガラガラガラッ、大きな音で図書館の戸が開いた。ヒトが折角センチな気分に浸ってるってのになんと無遠慮な! 一体どこのどいつだ! 絵本を閉じて顔を見たけど、誰か分からないや。校則ユルユルなこの学校で学ランの一番上のボタンまで止めてるなんて珍しい。ユウキなんて茶髪だし、私は髪はピンク色だけどネクタイ勝手に市販のリボンにしてるし、居眠り図書委員に至っては金髪ピアスなのに。なんて考えてたら、その真面目学ラン男とバッチリ目が合ってしまった。というかこっち見てる? 真っ直ぐこっちに向かってきてるんだから見てたんだろうね。
「あの……今大丈夫、ですか?」
「何がだね?」
「いや、ちょっと話……というか伝えたいことがあって。話す時間があるかなって」
「時間ならユウキが来るまで売る程あるけど、そもそも君は誰なのさ?」
私がそう言うとショックって顔された。仕方ないじゃん、やっと同じクラスの子の顔と名前が一致したトコなんだから。
「ごめんね。人覚えるのはあんま得意じゃないのよ。それで、お名前は?」
すっかり黙っちゃったから私から助け舟。有り難く思いなさいよ。
「俺は二年二組の吉岡です」
「ほう、ヨシオカ君っていうのか。まぁまぁ、楽にしておくれよ。同学年のよしみでさ」
「あ、はい……じゃなくて、うん」
このヨシオカとか言う男、存外に素直だわ。うむ、良いことだ。
「で、用件は何かな?」
「それは……」
周りをキョロキョロ見回すヨシオカ。ここにいるのは相変わらず私と図書委員だけ。ふぅ、ヨシオカが息を吐いた。こっちを見る目がさっきより真剣になったのが分かる。ここはふざけちゃダメな場面よね。流石の私も空気とやらを読んで真面目な顔をする。
「好きです。付き合ってください!」
「マジかっ!」
ハイ、やっぱり真面目に出来ませんでした。真っ赤な顔したヨシオカに申し訳ない。だからちょっと話を広げてあげることにした。
「あのさ、純粋な疑問なのだが、君と私は今日初めて話したよね? てか私は今の今まで君のこと知らなかったのだけど、そんな関係で好きってどういうことよ?」
「え?」
ヨシオカは驚いた顔してるけど、私には本当に理解出来ないんだ。
「……話したことは無いけど分かることはあるよ。よく片瀬の髪いじってるだろ? あれ、上手いなっていつも感心してる。それに、頻繁に図書館に来て勉強してるのも、真面目で尊敬してる。俺はそういうとこを好きになった。それじゃ駄目かな?」
「なるほどね。でも私には既に好きな人がいるのだが?」
「……知ってる」
「ほほぅ? だったら……」
突然肩を掴まれた。ちょっと驚いて二の句が継げなくなっちゃったじゃん。
「なんでだよ! 片瀬は……片瀬優姫は女なんだぞ!」
一瞬で私の心臓は冷たくなった。ヨシオカがしまったって顔をした。
「……ごめん」
肩から手が離れる。
「ヨシオカ、今お前は最低なこと言ったぞ」
ヨシオカが頷く。
「好きになる気持ちに男とか女とか目の色とか肌の色とかどこで生まれたとか、関係ないんだよ。目が青い私を好きって言うくらいだから、分かってると思ってた」
「ごめん。本当に」
項垂れるヨシオカ。高い背がここまで小さくなるのかってレベルで小さくなった。
「……うむ、反省してるなら良し」
私が腕をバシバシ叩くとヨシオカも顔を上げた。
「告白には答えられないが、ここで会ったが百年目。私は君ともお友達になりたいぞ」
「なんだよそれ。こう言う時は百年目じゃなくて何かの縁って言うんだぜ?」
笑うヨシオカを見てなんか安心した。
「笑った顔は中々いいじゃん」
私の一言にも顔が真っ赤になってる。やっぱり恋って良いわぁ。
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