第9話 動乱の文化祭③

 思い返せば思い返すほど、宝条に対して調子に乗った言動をしていた気がして恥ずかしさが込み上げてくる。野球部時代の習慣からか、どうにも僕は他人に対して縦社会的で、先輩、後輩というのを強く意識してしまう。その結果、年下に対して強く出てしまう悪癖があり、馴れ馴れしく過干渉ぎみになってしまう。

 以前、音無に「あずま先輩、後輩にはぐいぐい来ますよね。ははは!」と言われて自覚してからは自重していたつもりだったけれど、立花が違和感を抱いたくらいだから、宝条が僕の事、『こいつ、馴れ馴れしいな……』とか思っていても不思議ではない。

 嫌な想像は膨らみ、顔から火が出るようだった。

「ずっと後輩だと思って接して……う、うぅ、僕はもうだめだ。穴があったら埋まりたい。誰も僕を見ないでくれ……」

「はいはい。そんな気にすることじゃないと思うけどな」

 赤くなった顔を隠しながら歩く僕を引き連れながら、立花は呆れたようにため息を吐いていた。

「そこのお二人さん。占い、なんてどう?」

 教室もとい今は模擬店が並ぶ廊下を歩いていると突然そう声を掛けられた。

「う、占い?」

「へ~。面白そう! いこうよ、東」

 困惑しながら聞き返した僕とは違い、立花は乗り気で返事をして、声をかけてきた手持ち看板を持っていた女子生徒についていく。看板には『二の三 占いの館』と書いてあった。

こんな模擬店もあるんだ、なんて思いながらも、先で案内されている立花について教室の中に入る。暗幕でうす暗くなった室内は、それっぽい印象になるように間接照明で照らされていた。

「どうぞ、こちらに」

 いくつか暗幕で仕切って作った狭いブースへと案内される。

 飾り付けや照明なんかミステリアスな雰囲気を出そうという意欲は感じられたけれど、如何せん仕切りが暗幕だけなので、隣のブースや教室の声のにぎやかな声が筒抜けでそれらしさは微妙なところだった。近くに焼きそばの模擬店があるせいか、微かに薫るソースのにおいが食欲をそそる。

 中には占い師風の衣装を着た女子生徒がいて、机を挟んで一脚だけ椅子があった。立花が椅子に座ったので、後ろから立ったまま女子生徒の手元を見る。僕らが普段、学校で使っているものと全く同じ簡素な机の上に、タロットカードが裏返しになってバラまかれている。数はそんなに多くない。二十枚ちょっとぐらいだ。

「う~む。視える、視えます」

 立花が椅子に座るなり、女子生徒はそう言いながらつたない手つきで両手で時計回りにカードを少し混ぜた。

「それで、どういったお悩みで?」

「え、えーっと。何がいいかな?」

 立花がこちらを振り向いて聞いてきた。視えるんじゃないのかと思いながらも、適当に答える。

「恋愛相談とか? 仲直りの方法とか聞いたらいいんじゃないか?」

「ええー。あれは悠馬が悪いんだって」

 立花が不満げに言いながらも、女子生徒の方へと向き直る。占い内容が決まって、大げさな手振りで女子生徒は自分の頭を触り始めた。

「ふむ。なるほど。そちらの方、お名前は……いえ! 待ってください」

 占いのための質問を続けるのかと思うと、突然声を上げて動きを止め、意味ありげに僕の方を見た。

「あなたの名前は、東悠馬ですね」

 ……。間違った占いの結果にどう返せばいいのか困って硬直する。自信ありげな相手に、少しばかり罪悪感を抱きながら訂正する。

「……ち、違います」

「えっ! あれ、おっかしいな~。ラインだとそう来てたんだけど……。すみません~!」

 手元に隠してあったスマホの画面と僕らの顔を交互に見比べながら、女子生徒が恥ずかしそうに謝る。

 どうやら外の客引きの時の会話を、携帯でやり取りしてそれっぽく当てるという手法を使っていたらしい。

 外で立花が僕の名前を呼んでいたから、それを苗字と勘違いしたのだろう。先ほど聞いた結城の名前と合体させて、それらしくフルネームを当てようとした結果が先ほどのあれだったようだ。

欲を言えば語感の悪さで違うと気づいて欲しかった。外した占いに白けた空気が流れて気まずかった。

「はぁ、二択ではずした。恋人じゃなくて姉弟か」

 ぼやきながら再び、女子生徒がタロットを混ぜ始める。恋人か姉弟かと、あたりをつけて質問を投げかけていたようで、タネが割れてしまってどこか投げやりな態度になってしまった。

(姉弟でもないけどなぁ……)

 さすがに二度目の訂正は気まずく、言い出せないままになってしまった。

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