第9話 動乱の文化祭①

【四年前:高校一年の夏休み後】

 音無と再会してから、あっという間に夏休みは終わってしまった。そもそも、残り少ない日数ではあったけれど。最後の週になれば、補講だったり、文化祭の準備だったりと、あの暇を持て余していた休み中が嘘のように忙しくなってしまった。

 音無はと言うと、あの一件以来、立花への付き纏は止めたようだった。変に思い切りが良いところがあるのに、やめろと言われると素直に止めるところは、諦めの良い彼らしいとも言える。

 ――しかし、ともかく夏休みは終わり、宝条の文化祭はもう鼻先へと迫っていた。

 僕は、宝条から渡された文化祭のチケットを二枚、手元に持ちながら視線を落としていた。隣には立花が、土曜日ということもあって私服姿で、のぞき込んでいる。

 宝条の学校の文化祭は一般公開こそされていないのだけれど、生徒には五枚の関係者用のチケットが配布されるらしい。

 生徒たちは家族や他校の友人なんかに渡して文化祭に招待するというわけだ。僕と立花は一枚ずつそれを譲り受け、宝条の劇を見届けるべく彼女の文化祭へと訪れていた。

 本当は、宝条がチケットは四枚余っているからと、残りの二枚もくれるというので結城も誘うおうかと思ったのだが、立花が断固として首を縦に振らなかった。まだ喧嘩が続いているらしい。心配と呆れが半々で、僕は黙って結城へ渡してやろうかとも思ったけれども、今日の心配事は宝条の劇だけで十分だ。結城には悪いが残り二枚のチケットは辞退した。

 宝条の通う学校は、僕らと同じく中高一貫の私立だった。ただ、大きく違うのは宗教系の女子高というところだろう。

 門をくぐると、どこかお淑やかな雰囲気の中、可愛いらしい制服に身を包んだ少女たちが楽し気な様子で招待客を案内していた。混雑しながらも綺麗に整列させられた待機列の中で僕と立花は顔を見合わせた。

「ここって所謂『お嬢様学校』ってやつ?」

「そうかもな……」

 二人してどこか居心地の悪さを感じながら肩を寄せ合う。一度でも意識してしまうと何だか自分たち以外の身なりがやけにやけに良い気がして場違いなのではないかと気になってしまう。

 縮こまりながらも列の流れに合わせてこそこそと前へと進む中、そういえば、昔、野球部の先輩がここの女子高の文化祭に行こうと悪知恵を働かせていた事を思い出す。

 確か野球部の後輩の友人の妹経由で文化祭のチケットを入手して潜り込んだものの、結局緊張して『お嬢様』とお知り合いになることはできずに帰ってきて、そのやけ食いに付き合わされた気がする。思い出したくもないむさ苦しい記憶だ。

 嫌なことを思い出して、目をしょぼしょぼさせていると立花が僕の腕を引っ張った。どうやらいつの間にか受付の前へと来ていたようで、手に持っていたチケットをひったくられる。受付の綺麗におかっぱ頭にしている女生徒が、ほほえましそうにそれを受け取って確認すると、どうぞと細い指をした手のひらで中に入るように促された。

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