第8話 サークルの不祥事②

 サークルの不祥事と現状を知り、僕が呆然としていると、佐原会長は苦笑しながら再び白板へと向き直った。

「ま、まぁ、そんなことがあってから、部員も減ったけれどOBとも疎遠になってね。悪い先輩たちと縁が切れたのは良かったって、他大の人たちは言ってたな。実際、去年度はそれ以降あのが顔を出さなかったわけだし」

 ちょっとした安堵をにじませながら、会長は手元に持っていた資料へと目線を落として、その内容を白板へと転記し始めた。大学の学生課から通達された新歓禁止に関する詳細らしく、『立て看板の禁止』『新歓期間におけるコンパの禁止』『勧誘許可の付与なし』『掲示物の禁止』などが記されていく。思っていたよりも制約は厳しいもののようで、新入部員の獲得はほぼ見込めないものと思われた。

 死者一名に、未成年への飲酒強要、それに他にも余罪がありそうだ。少なからず、佐原会長の『先輩たち』という言葉からは複数人が絡んで、よくない状態が常態化していたことがうかがえた。廃部にならなかったのが不思議なくらいだが、しかしながらそれに準ずる程度の罰は受けたようだ。つまるところ、去年の時点で実質的な廃部になっており、だからこそ他の部員はさっさ見切りをつけたわけだ。

 南条女史のあたりがきついわけだ。つまるところ、僕と河西は彼女が所属していたサークルを実質的につぶした原因の一つなのだから。

 佐原会長の板書を待つ間、僕はふと気にかかることがあり、質問をした。

「……他大の、証言してくれた人物って?」

 横へと話しかけると、玉井と目が合った。彼女は蒼白な顔を伏せて、僕から視線を逸らした。

 仕方なく、その隣、河西へと視線を移すと、彼は眉を寄せて、首をかしげた。

「え、ええっと……誰やったかな? 一年生だったと思うんやけど」

 うんうんと唸って思い出そうとする彼を見て、佐原会長と南條女史も記憶を探っているのか、口数が減る。さすがに一年も前の出来事だ。それに他大学のメンバーで入部したばかりの人物ともなると、記憶に薄いのだろう。

 回答を諦めて質問を撤回しようとした瞬間に、意外な人物が口を開いた。

「……ゆ、結城くん、だった」

 玉井は視線を膝に落としたまま、震える声でそう証言をした。そこには、微かに、しかし明確に怯えの表情が見え隠れしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る