第5話 結、オチは静かに書きましょう

 わたしはライターであるあなたに夕飯をご馳走して、その日は解散となりました。炊飯器で作ったケーキだなんて教えず、食後に出してみると、「生地がとてもおいしいです!」と言って、あなたは微笑みながら食べてくれます。

 その夜、わたしはお風呂に入ってその出来事を思い出し、「フフフ」と不気味な笑い声を出して、自分の時短テクニックがまだ通用したことを喜んでしまうのでありました。


 さて、そんな夕食会から一夜明けて、いよいよオチをつけることになりますが、ここで作品の評価のほとんどが決まります。わたしは以下の点をあなたに指示をして、撮り溜めしておいた韓流ドラマを観ながら、完成を待つことにします。


①オチを強調しない

②彼女をみじめ(いわゆる「ざまぁ」)にしない

③母とのイチャイチャを抑えめにして読後感を作り出す。


 ①は若い人程やりがちなのですが、できるだけ淡々と書きましょう。そうする理由は二つありまして、一つは作品全体のバランスがとれないからであり、もう一つは、読者に、とりあえず起から書き始めて、最後に起に合わせたオチをつけたような薄っぺらい作品と思われないためです。今回のようにテクニックだけで書く場合、オチが命です。むしろ、オチに向かって最初から書いているんだな、と読者に感じてもらうことで、「しっかりとしたプロットを考えて、一貫性を持って書いているんだ」と思ってもらおうと、我々悪辣なチーム犀川は企んでいるわけです。炊飯器に具材入れて炊いただけのカレーを手間暇かけて作ったように見せるのが、今回のテクニック論の真髄なのですから、大事なポイントになります。


 ②は正直、読者層にもよるので絶対ではないですが、話の厚みがなくなるので、やめた方がよいと思います。彼女は振ってから、自分の母が主人公とイチャイチャしてたことに絶句して終わるのが、一番無難だと思います。


 ③も大事な要素で一貫性が崩れるくらいに母がデレデレしすぎてしまうのも良くありません。ラブコメとしてのオチでは無理筋ではありませんが、オチは控えめにすることで、読者が作品に感情を入れる余地を作らねばなりません。

 読者が「良い話でした」と感想を言ってくれる場合、作品自体が良かったからではなく、読者がその物語に没入できたという理由によるものが大半になります。あなたにとっては不本意かもしれませんが、時短テクニック料理を食べてくれた人に食後の余韻を与えられたのであれば、それはそれで作家冥利につきるというものです。わたしたちはまるで魔術師のようではありませんか。


 さて、本作は完成しました。あとはタイトルとキャッチーな呼び込みをつければ一作の出来上がりです。

 わたしたちはお祝い用に冷やしておいたシャンパーニュの栓を宙に飛ばしてから、泡立たぬよう、グラスに注いでいきます。

 そして、あなたがライターとして文章を肉付けしていった執筆作業を労いつつ、「☆3つをもらえますように!」と、わたしたちは静かに乾杯をするのでした。

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