第4話 転にも仕込みましょう 

 今回のお話の「転」は、


①彼女に「振られそう」なシーンを六百字から八字程度書く。(※言い忘れてしまいましたが、原稿用紙五枚の場合は半分でお考え下さい)

②①に主人公と彼女を心配する母のシーンを入れる


 ことにしましょう。わたしは優秀なライターであるあなたに「できるだけリニアに彼女の不穏な感情を上げ、上げきったところに、主人公が母に相談するシーンを書いてほしい」と頼みます。あなたの表情を見て、理解の深度を確認すると大丈夫そうですので、わたしは夕飯の買い物に出かけることにします。あなたのような上質なライターには、コツと要点さえ伝えておけば、はいくらでもできると信じているので安心です。事実、あなたはわたしに逞しい笑顔を向けて、「いってらっしゃい」と言ってくれるのでした。


 ①はまだ転ですから、彼女が振ってはいけません。このままだと破局になりますよ、と深刻度合いを増しながら破局を匂わせていきます。

 ここでテクニックとして「テンショングラフ」というものをご紹介します。縦軸はテンション度合い、横軸は小説の始まりから終わりまでとします。今回は単純な山形の線かもしれませんが、書いているときにこれを見直すことで、物語の中でキャラの態度が不自然に豹変するのを防止することが期待できます。

 今回は彼女のテンションを「転」の時点でマックスにもっていきます。理由は二つあり、一つ目は結のテンションを主人公に持ってきたいからであり、二つ目は母との親密な仲を読者にバレないよう、彼女のテンションマックスのところに話を差し込んで目立たないようにするためです。この時点で主人公の相談に乗る母を見て、読者が「あ、コイツらがくっつくんだな」と思わせてしまったら、わたしたちチーム犀川は三流作家軍団です。手品の仕掛けがバレたようなもので、みっともない結果になってしまいます。


 ②も上記同様のことになりますが、いかに自然に母との仲を読者に知られずに、結で母とくっつくことに意外性と納得感を感じてもらえるかが肝心です。まさに肝であり、本作の屋台骨になります。

 

 さて、夕飯の買い物から帰ってきたわたしは、ライターであるあなたに、「起、承、転の部分に、読者にバレないような母の話というジャブを打てましたか?」と問いかけます。あなたがニヤリとしながら静かに頷くと、わたしは「夕飯食べていってね」とあなたを褒めていることを言外に匂わせて、キッチンに入るのでした。

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