第3話 あおいくん

 「あおいくん」肩を叩かれながら僕の名前が呼ばれた。僕は無言のまま呼ばれた方向にゆっくり顔を向けた。「あれ、葵陽くんであってるよね」僕を呼んだ彼は少し不安な顔をしていた。あってるよって言葉に出したいが喉が言うこと聞かず、発生することが出来ない。僕は精一杯のうなずきを彼にした。「良かった、良かった、違ったらどうしようかと思った。俺、瀬之 糀谷。こうじって呼んで、そのケガ本当に大丈夫か、病院行かないのか」柔らかい口調で話すこうじに僕は配られたプリントの裏に書いて説明する。一応保健室で応急手当てをしてもらったこと、ケガに気づいた職員室の先生が病院に連絡していること先生も初めてのことなのか慌てに慌てていたので、どこで待つようになどなにも言われなかったため一人寒い昇降口に立たされていた僕はそのままクラスに向かったことを書いた。「なるほどなぁ、本当に大変だったな。しかもぶつけた車逃げたんだろ、早く見つかると良いよな。ごめんな急に話しかけて、身体良くなったらまた話そうぜ、あ、LINE交換しとこうぜ」そう言って僕は高校初めての友達を作った。話しかけずに作れるとは、ほんの少しこの事故が良かったと感じてしまった。いや断じて良くない。犯人を探さないと。そんなことを考えていたら先生が汗だくの姿で教室のドアを勢いよく開けた。半ば強制的に連れていかれ、先生の自家用車に乗った。病院に向かうのだろう。「狭くてごめんねぇ」先生の軽自動車の中は確かに狭かったあちこちに転がっている数多のぬいぐるみ、中には女性の美容の本、「立派な教職員になるためには」と書かれた付箋だらけの本、後部座席には乗れず仕方なく助手席に乗った。「大変だったよねぇ。先生だったらないてるよぉ」すこし涙目をしている先生を見てコクコクとうなずく。そういえば先生の名前をまだ知らない。どこかに書いていないか、軽く見渡した。先生の名札が足の上に落ちた、「篠宮 灯」しのみや先生と言うらしい。篠宮先生は涙目になりながら先生の昔話を混ぜながら僕を心配している。全て聞いていたいが、色々のことが起こりすぎたせいか身体の疲労感がピークに達している。気づいたら僕は深い眠りについた。

 少し変わっているがなんでもない普通の日常、普通の高校初日の雰囲気。この日常が変わるなんて誰にも予想できるはずがない。

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泥だらけの日記帳 那刄碧 @nahaheki

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