第16話 秘密と追っ手

「そういやさ、一つ思い出したことがあんだけど」

 移動を始めてすぐ、ライラは2人に言った。

 3人はジェイドを先頭にして、ライラ、クローイと並んで歩いている。

 後ろからクローイが尋ねた。

「何を思いだしたの?」

「ほら、昨日寝る前に呪文がどうとかって話しただろ? そん時、切裂号もそういや呪文っぽい言葉を言ってような気がするなって」

「……切裂号が呪文を? 何て言ってたの?」

「ええと、グラなんとかって。ほら、剣を出すときの」

「もしかして〝魔剣グラディット〟?」

「あ、それだ!」

 ライラはぱちんと指を鳴らした。

 ジェイドが怪訝そうな――というか、非常に胡散臭そうな顔で振り返った。

「……おい、平民。それはお前の聞き間違いか勘違いじゃないのか? 常識的に考えて、魔人がわざわざ呪文など使うわけないだろう。呪文は〝魔法〟を覚えるために使うんだぞ。魔人のやっていることはただ魔力を暴走させているだけだ。あれは厳密には〝魔法〟ではない」

「そう言われてもな。実際に言ってたんだからしゃーねえじゃん」

「だから、それはお前の聞き間違いだ。クローイ様もそう思われますよね?」

「……」

「クローイ様?」

 ジェイドが呼びかけても、クローイはすぐには反応しなかった。じっと何かを考えている様子だった。

「……ねえ、ライラ。あなた、確か切裂号の血が青く見えた――とも言ってたわよね?」

「ああ。オレには確かに青く見えたぞ、うん。ありゃ絶対青かった」

「だからそれも貴様の見間違いだ」

「いーや、絶対に青かった。オレは眼だけは良いんだ」

「適当なこと言うな。貴様は頭が悪いのだから眼も悪いに決まっているだろう」

「お前ムカツクな!?」

「貴様の顔ほどではない」

「どういう意味だよ!?」

「……」

 2人がぎゃーぎゃー言い合っているのをよそに、クローイは再び黙り込んでいた。

 しばしあってから、彼女は顔を上げてジェイドに話しかけた。

「……ジェイド、あなたはもしって言われたら信じられる?」

「え? それはつまり……貴族が魔人に、ということですか?」

「ええ」

 ジェイドは非常に困惑した顔を見せた。ライラが相手だったらあり得ないとばっさり切って捨てていただろうが、クローイが相手なのでかなり言葉を選んでいる様子だ。

「……そのクローイ様、お言葉ではありますが……それはほぼあり得ないと言う他にないかと。というより、クローイ様自身、それはあり得ないと分かっておられるのではありませんか? 貴族は魔力を暴走させても魔人化しません。確かに魔力が暴走することは稀にありますが、仮にそうなったとしても身体が結晶化して自滅するだけです」

「そうね。それが常識だわ。けれど、もしよ。もし、そうならないようにする〝何か〟があるとすれば……話が大きく変わってくると思わない?」

「〝何か〟――ですか?」

「そう、〝何か〟よ。例えばそれが、ライラがダニエルの口から聞いたという〝賢者の石〟という物の正体だったりとか」

「……」

「これは本当にもしもの話だけれど、貴族が結晶化せず、魔人化の力を完全に制御できるようなことがあれば、それはとんでもない〝力〟になると思わない? そもそも、なぜ貴族の身体が魔力暴走時に結晶化するのか、根本的なところは謎だわ。わたしたちは単純にそれが常識だと昔から思ってきたけれど……仮にそれを回避して意図的に魔人化できるような物が存在すれば、これは本当にとんでもない軍事兵器になり得るわ」

「……だとすれば、つまり切裂号はその賢者の石とやらで魔人化した貴族である、と?」

「全ては憶測よ。でも、そう考えれば辻褄が合うと思わない? どうしてわざわざ第一中央騎士団ダニエルたちが動いていたのか。彼らはどうして秘密裏に動いていたのか。そして、なぜ叔父上がそこに関わっているのか……もし賢者の石がであるとすれば、軍務卿である叔父上が関わっていても不思議ではないわ」

「オレにはなんかよく分かんねーけど……わざわざ自分たちが魔人化するようなもん作って意味あんのか? 普通に考えて魔人化したらダメだろ? 魔人化しないから貴族は貴族なんだろ? 

 ライラは首を捻った。ヴィルマルスは魔人化するが故に迫害され、殺されているのだ。もし貴族が魔人化してしまうのであれば、――と、ライラは彼女なりにそう考えたのだった。

 だが、これにクローイはかぶりを振った。

「いいえ、ライラ。この場合は少し話が違ってくるわ。確かに制御できていない魔人はかなりの脅威よ。自然災害のようなものだわ。けれど……もし制御化された魔人というものが存在すれば、それはもう立派な〝軍事力〟なのよ」

「どういうことだ、それ?」

「過去の討伐例を鑑みれば、魔人一体の戦力は、単純に一個騎士団と同等レベルの戦力になり得る。魔人一体を討伐するのに、それだけの戦力は必要になってくるから。ようするに魔人は戦力としてみれば〝限界〟を越えた先にある究極の存在と言える。貴族は魔人化できないけれど、もしその枷を外して意図的に魔人化することが出来て、かつそれが制御可能な状態にあるとすれば……魔人の力を持つ貴族が数人いるだけで、一国を壊滅させるほどの軍事力になってしまう。もしそんな物が存在するとなれば――」

 話の途中で、いきなりクローイの言葉が止まった。

 ほぼ同時に、クローイとジェイドの2人が背後を振り返った。

 ライラはちょっとびっくりして2人を交互に見やった。

「な、なんだよ急に? どうしたんだお前ら?」

「……クローイ様、いかがなさいますか? わたしは逃げた方がいいのではないかと思うのですが」

「……いえ、逃げても無駄ね。すでにこちらは捕捉されているわ。この距離まで気付かなかったのだから、向こうは最初からこちらに気付いて気配を消していたはずよ」

 2人で神妙な顔をして何か言い合っている。

 いったい何なんだ? とライラが思っていると……急に背中がぞわりと寒くなるような気配を感じた。

(な、なんだこの感じ――〝何か〟来る)

 言葉にできない感覚だったが、ライラは確かに感じた。

 それは彼女がヴィルマルスであり、潜在的に魔力を感知する能力を持っているが故に感じたものだった。ようするに、ライラはクローイたちと同じ感覚を味わっていたのだ。

 それはつまり――膨大な強い魔力による圧迫感だった。

 クローイたちの背後で、急に明かりが灯った。

 それも一つではない。いくつもの明かりが一気に灯り、闇が一瞬にして焼き払われてしまった。光源となる火の玉が瞬時にいくつも発生したためだ。

 現れたのは騎士だった。

 いつの間にその距離にまで接近していたのか、かなりの数の騎士がそこにいた。10人はいるだろう。その中には、あのダニエルという男の姿もあった。

「いよう、クローイ。久々じゃねえか……元気してたか?」

 その中から一際身体が大きく、とても凶悪なツラをした男が進み出てきた。あまりに凶悪なツラなので、ライラですらちょっとぎょっとしたほどだ。

(こいつがこの〝寒気〟の元凶か――)

 男の姿を見た瞬間、ライラは自然と理解していた。

 この地下空間はただでさえ空気がひんやりとしているのに、その空気がもっと冷たく感じる。しかも冷たいだけでなく、肌にざらざらと触れてきて、とんでもなく不快でもあるのだ。

 その全てが、あの大男から発せられている。

「……お久しぶりです、叔父上」

 クローイがこれまでにないほど緊張した声を出した。

 

 μβψ


「……もしかして、あれがアーヴァインとか言うやつか?」

 ライラは横にいたジェイドに小声で尋ねた。

 ジェイドもまた、かなり緊張した声で答えた。

「……ああ、そうだ。あのお方が〝軍務卿〟――栄光戦争で多くの戦果を上げた我が国の〝英雄〟だ」

「それって強いのか?」

「強い。が――かなり前にもう前線は退いている。わたしも実際に軍務卿が戦っているところは見たことはない」

「そうなのか? その割には威圧感がやべえんだが……」

「……不本意だが、それについてはわたしも貴様と同感だ。とても何年も前線を退いていたような気配ではないな、これは――」

 2人はアーヴァインの発する気配に対し、自然と冷や汗をかいていた。身体が硬直し、その場を動くことができない。

 そんな中で、クローイだけはアーヴァインに向かって、むしろ一歩踏み出し、堂々と対峙した。

「叔父上。どうして軍務卿であるあなたがこんなところにおられるのでしょうか? 父上は叔父上がここにいることを知っているのですか?」

「いいや、知らねえはずだ。というか知られると都合が悪いんでな。なんせ、オレはいま公務で国外にいることになってんだからな」

 と、アーヴァインは悪びれる様子もなく、開けっぴろげにそう言った。知られると都合が悪い……という割には、まるでこそこそとしている様子もない。完全に開き直ったような態度だ。

 クローイの顔がますます険しくなった。

「……率直にお伺いします。叔父上、あなたの目的は何ですか? そこにいるダニエルは切裂号を捕縛するためと言っていましたが……それは何のためでしょう? 治安維持のためですか? それとも――彼が言っていた〝賢者の石〟とやらを隠蔽するためですか?」

 ちら、とクローイの視線がダニエルに向けられる。ダニエルはアーヴァインの背後に立っていたが、賢者の石という単語が出ると明らかに狼狽した様子を見せた。

 アーヴァインが背後を振り返り、ダニエルを一瞥した。

「……おい、ダニエル。てめぇ、こいつらに賢者の石のことを漏らしたのか?」

「い、いえ、わたしは何も……ッ!?」

 ダニエルは咄嗟に否定しようとしたが、思い当たる節があったのか、少し目が泳いでいた。

「ちっ、てめぇは相変わらず詰めが甘いな。だが……まぁいい」

 アーヴァインは改めてクローイに向き直ると、ニヤリと口端を歪めた。

「クローイ、おれは前からてめぇのことは評価してたんだぜ。頭の固い老人どもは、てめぇのことを〝道楽王女〟なんて呼んじゃいるが……てめぇは頭が切れるし、何より天運がある。。その上、騎士としての実力も申し分ない。それに、おれにとっちゃ血の繋がった身内でもあるわけだしなぁ……てめぇとは腹の探り合いはしたくねえんだ。腹を割って話したい。そこで一つ、おれから提案がある」

「提案、ですか?」

「ああ。なぁクローイよ……おめぇ〝世界征服〟ってのに興味ねえか?」

「……は? せ、世界征服?」

 一瞬、クローイはぽかんとしてしまった。まったく想定外の単語が出てきたためだ。

 てっきりふざけているのかと思ったが、どうやらそうではない様子だ。アーヴァインは顔こそ笑っているが、まったくふざけているようには見えなかった。

 クローイは相手の真意を掴めぬまま、その言葉の意味を問うた。

「申し訳ありません、叔父上。言っていることがよく分からないのですが……世界征服と言ったのですか? それはどういう意味なのでしょうか?」

「ははは、そりゃそのまま文字通りの意味さ。世界征服――おれらがこの世界を支配し、その頂点に君臨する。これは冗談で言ってるわけじゃねえぜ。実際、もうすぐそれは実行に移される。おれらはまずこの国を手中に収め、そこから世界を支配していくつもりだ。そのための準備が、もうすぐ全て完了する」

「……」

「そのためには〝同志〟が必要だ。おれらの掲げる〝新世界秩序〟に共鳴し、理解することのできる同志が――な。どうだ、クローイ? おめぇならおれらの同志になるに相応しい人材だ。なんならてめぇには〝席〟を一つ用意してやってもいい。まだ賢者の石に余裕はあるからな」

「な――アーヴァイン様!? それはわたしのための〝席〟ではないのですか!?」

 突然、ダニエルが目を剥いて驚いた声を出した。

 アーヴァインはつまらなさそうにダニエルを一瞥した。

「ダニエル、以前から思っていたが、やはりてめぇに〝席〟をやるのはめだ。てめぇに賢者の石は使いこなせねえよ。

「そ、そんなことはありません! わたしなら、賢者の石を使いこなして見せます! あんな失態は絶対に犯しません! ですから、何卒わたしにも〝席〟を用意してください!」

「くどい。めと言ったらめだ。残念だが、あれは〝愚か者〟には使えねえ代物なんだよ。それとも、まさかおれに口答えするつもりじゃねえだろうな?」

 ぎろり、とアーヴァインがダニエルを睨みつける。

 凄まじい殺気だった。睨まれた本人だけでなく、他の騎士たちも圧倒されたように身体を強張らせた。睨まれたダニエル本人は、それこそ凄まじい恐怖に駆られたことだろう。

 ダニエルは「ひっ」と小さく悲鳴を上げると、その場にひれ伏した。

「も、申し訳ございません! 差し出がましいことを申し上げました! どうかお許しください!」

「ふん……ま、もう少し精進すりゃ考えてやるよ」

「はっ!」

 深く、深く頭を垂れる。小刻みに震える身体からは、ダニエルの感じている恐怖が傍目からでもよく伝わってきた。

(……こいつがアーヴァイン。ダニエルのやつが完全にビビってやがる)

 ライラはじっと、冷や汗を流しながらアーヴァインのことを見ていた。

 彼女はダニエルに捕まえられそうになった時のことを思い出していた。これまでどんな相手でも喧嘩で負けることのなかったライラが、片腕一本だけで地面に押さえつけられ、まったく抵抗ができなかった相手だ。それほどの男が、あのアーヴァイン相手にはまるで小動物のように脅えている。ダニエルでも十分に〝化け物〟だというのに、ならばこの男はいったいどれほどの〝化け物〟だと言うのだろうか?

「サイラス……? まさかサイラス・バートンのことか?」

 ジェイドが小声で何事か呟いていた。

 ライラは思わず聞き返していた。

「なに? スライス・ハムエッグ?」

「サイラス・バートンだ。どんな耳してるんだ、貴様は」

「誰だ、それ?」

「第一中央騎士団所属の騎士だ。わたしが王立学校に在籍していた時の下級生でもある。とても優秀な人物だったので、よく覚えているのだが……最近、そいつが行方不明だという話だったのだ。だけど、まさか――」

「叔父上、サイラスがどうかしたのですか? いまの言葉の意味――教えて頂けませんでしょうか?」

 クローイが厳しい声音でアーヴァインに問うた。

 すると、アーヴァインはなぜか楽しげな笑みを浮かべた。

「その質問に答える前に、一つ聞いておこう。それに答えられたら、そっちの質問にも答えてやる」

「何でしょう?」

「クローイ、おめぇは賢者の石がどういうものと思っている? これはおれの勘だが……おめぇのことだから、状況から何となく察しは付いてるんじゃねえのか?」

「……人為的に貴族を魔人化させる――でしょうか?」

「ひゅー! こいつは驚いた! ビンゴだ! まったく以てその通り!」

 アーヴァインは楽しげに手を打ち鳴らした。その様子は、丸っきりはしゃぐ子供のようだった。

「おめぇの言うとおりだ。賢者の石はおれたち貴族を魔人化させるための軍事兵器さ。ちゃんと兵器だということを理解しているのはさすがだぜ。貴族は魔人化できねえ。魔力が暴走しても結晶化するだけだ。実際、オレもそうなっちまったクチだからな」

 そう言いつつ、アーヴァインは服をめくって腹部を見せた。すると、そこには人体の一部とは思えない部分があった。右脇腹の皮膚表面がまるで透明な石のようになっていたのだ。

 その部分をこつこつと自分の手で叩きながら、アーヴァインは自嘲気味な笑みを浮かべた。

「こうなっちまったら、もう騎士としては終わりさ。一度でも身体の一部に結晶化現象が起きちまったら、大量の魔力を消費するようなことはもうできない。結晶化が進んじまうからな。内蔵まで結晶化したら、後はもう死ぬだけだ。だが――賢者の石があれば、この結晶化現象を回避できる」

「つまり……魔人化できる、ということですか」

「そうだ。まぁ魔人の力を完全に制御できるかどうかは本人の精神力次第ではあるが……逆に言えば、精神力さえあれば、それと引き換えに強大な力を手に入れることが出来る。残念ながらサイラスのやつは〝力〟に飲まれてになっちまったけどな」

「じゃあ、切裂号と呼ばれている魔人の正体は――」

「そう、サイラスだ。切裂号はヴィルマルスが暴走した魔人じゃない。賢者の石で意図的に生み出された貴族の魔人だ」

「そんな……じゃあ、中央騎士団が動いていたのは……?」

「無論、証拠を隠滅した上で賢者の石を回収するためさ。賢者の石のことはまだ外部に知られるわけにはいかなかったからな。ったく、サイラスのせいで余計な仕事が増えてたまったもんじゃねえぜ、こっちはよ。もうすぐ〝計画〟を始めようって時になぁ、やれやれだ」

 アーヴァインはやや大仰に肩を竦めた。

 その様子を見ながら、ライラはジェイドに耳打ちした。

「……なぁ、あいつなんであんなにベラベラと秘密喋ってんの? オレらにそんな話していいのか? バレちゃダメなやつなんじゃねえの、これ?」

「……状況をよく見ろ」

「え?」

「ここにはわたしたちと中央騎士団あいつらしかいない。そして――知られてはならない秘密を知ったのは、ここにいる我々3人だけだ。そして、周囲には逃げ場などない。別にどれだけ悪行をバラしたところで、わたしたちを消せばそれで終わりだ」

「……つまり?」

、ということだ」

「……」

 ジェイドの声には一切の余裕がなかった。それでようやく、ライラも状況が理解できた。冷や汗がさらにぶわりと吹き出した。

「クローイ、さきほどの答えを改めて聞こう」

 アーヴァインが一歩踏み出し、クローイに向かって右手を差し出した。

「おれたちの〝同志〟になるか? もしなるのであれば、お前にも〝席〟を用意しよう。お前には賢者の石を制御できるだけの〝力〟がある。その〝力〟で、おれたちと一緒に世界を手に入れねえか? これは夢物語でも何でもねえ。。賢者の石さえあれば――な。そして、おれが次の王になる」

 アーヴァインは凄絶な笑みを見せた。

「おれが王になれば国民軍も復活させる予定だ。重火器を禁忌兵器にするなんて、つまんねーことをするつもりもねえ。むしろどんどん強力な兵器を量産して、国民軍の軍事力を増大させるつもりだ。それに伴い、貴族による平民への統率もより一層強化する。兄者も老人どもも、どいつもこいつも〝予言書〟の予定通りに歴史を進めることしか頭にねえようだが……そんなつまんねえことしなくても〝千年王国〟を作るのなんざ簡単だ。絶対的強者が統治者になればいい。ただそれだけのことだ。弱肉強食は何も自然界だけの話じゃねえ。人間の世界だって同じだ。弱いやつが統治するから歪みが生まれる。国が弱くなる。だが――強いやつが統治すれば、それだけで全てが正常な状態に戻る。正常な状態の国は百年だって二百年だって、千年だって君臨し続けるさ。賢者の石にはそれだけの〝力〟がある。世界を支配できる絶対的な〝力〟が。クローイ、おめぇもになりたくはねえか?」

 アーヴァインは右手を差し出した。

「……」

 クローイは、自分に向かって差し出された手を、じっと見つめていた。

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