-閉幕-



 ハイネマンはメイザースが行った所には見当がついていたが、一緒についていくつもりはなかった。どうせ、公園で心中でもしてるのではないかと思っていたので、その瞬間に立ち会いたくなかったのだ。彼女らの意思を尊重し、最期ぐらいは往年の魔法少女の親交を汚したくなかった。


「なあ、店主」ハイネマンはコーヒーでも頼もうかと思って声を上げた。しかし、直前にある質問をしたかった。「……メイザースは、今日が終わりか」


「いえ、違うでしょうね」店主が答える。「メイザースは雨の日に、とあるビルの駐車場で、静かに亡くなりたいとずっと言っていたのです。今日は雪の日、だからまだ生きるでしょうね。しかし彼女がもう店に来ることはないでしょう。私の紅茶を嗜んでくれる、最高の客でした」


 ハイネマンは少し考える。雨の日、か。ならばまだメイザースは生きている。どこのビルか、それだけは知っておきたかった。だが、それは私の仕事ではなく、警察の仕事だ。そもそもとして、魔法少女を殺したところで、罪には問われない。死ぬことがそもそもないから、そういう法律がない。だが、フランチェスカは国葬されるであろう。今までの汚れ仕事は全て経歴から抹消され、メルカトールが先頭に立って人々に悲しまれるはずだ。だけれども、彼女を救ったメイザースは、1人で、孤独に、誰にも理解ってもらえずに死んでいくことになる。それはハイネマンの主義に反した。たとえ別の生物であろうとも、たとえ一瞬だけでも組んだチームでも、語り合った仲なのだ。私の我儘を通すならば、彼女の最期を看取る人は誰か必要で、今動けるのは私しか居ない。



 喫茶店のドアを空け、雪が雨に変わっていることに気がつく。不味い、これではメイザースは本当に決行するつもりだ。まずは公園に行って情報を手に入れればなるまい。ハイネマンは急いだ。


 公園についた頃、軽く積もった雪に倒れている魔法少女を見つける。


「……成程……でも、だとしたら、君が最後だと思っていた」


 ハイネマンはメイザースのことを思い浮かべる。まだ、メイザースには仕事が残っているのだ。メルカトールが遂行するかもしれないが、メイザースのほうが確実だ。人間ではなく魔法少女として、ミクロな、フランチェスカと私達の世界を救うのではなく、世界全てをしっかりと救わなければならなかった。だが、もう遅いだろう。


「メイザース、君は間違いなく、負けない人だった。今までの苦難も何もかも乗り越えてきたし、今が全盛期だった。だからこそ……だからこそだ。おそらく、世界は滅びる。全ての魔法少女を看取り、その後老後を過ごすものとばかり思っていた。だからあの計画に乗ったのだ。確かに理には適っている。だが、だがだ。ナンセンスだぞ、メイザース。世界を救ってきた英雄を救い、これから世界を救う英雄を作り、それで孤独死するだと? 巫山戯ないでくれ。絶対に、君の元へゆく」


 ハイネマンは立ち上がる。少しだけ足跡が残っていた。それを追っていくのは容易であった。故に、ハイネマンはメイザースの亡骸を発見するだろう。だが、もう彼女に会えないことは、ハイネマン自身が解りきっていた。



-閉幕-

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ある日、近所の公園で魔法少女が死んでいた @philo_0108

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ