-第13節-



「負けた、か」メイザースは倒れているフランチェスカの近くの地面に座り込み、語りかける。「私の想定通りなら、君は全力すら出せなかっただろう。なにせ、一度君が攻撃に転じた場合、それで全て終わってしまうのだからね」


「いいえ、いいえ」フランチェスカは笑いながら否定する。「全力は出せたわ。全力で守った。それを突破された。悔いは一切ないわ。あの子があんなに強くなるなんて、あんなに私を想ってくれていたなんて、とても、嬉しかった」


「そうか……」メイザースはフランチェスカと初めて会った時のことを考える。「あれから私は大きくなったろう。君と同じくらいの背から、君と姉妹と思われるぐらいには、大きくなってしまった。人間は魔法少女より寿命が長い、だから魔法少女は閃光のように、一瞬の花火のように人生を謳歌する。ジャネーの法則を信じるならば、私の生きた時間と、君の生きた時間は全く比例しない。私が一瞬に感じることでも、君は永遠のように感じるだろう。だから……今見ている景色は綺麗か?」


「ええ、ええ!」フランチェスカが微笑む。「夜の月に、雪が降っていて、とても美しい。雲の間から星も見えるわ。これが私の守りたかった世界。でも、私はもう終わってしまう。最期の風景が、こんな景色なんて、なんてロマンティックなのでしょう……」


 メイザースは懐からダガーを取り出した。大人になったばかりの頃、ディキンスンの『英雄の誇り』を読んで感服し、それに贈られたゴールド・ダガーと似た、金のダガーを入手した。いつかきっと、自分にとっての英雄に贈りたかったのだ。そして、その後の自分の無力感に、浸りたかったのかもしれない。そしてゆっくり、フランチェスカの胸に突き立てる。痛みはない、はずだ。今日のためにしっかり砥いできた。そして最後に一言二言言葉を交わし、鼓動が失くなった頃に「ありがとう、君は私の親友で、私の英雄だったよ」とメイザースが独り言ちた。


 メイザースはダガーからハンカチで血を拭いて懐にしまい、少し暖かくなったのか、雪が雨に変わっていることに気がついた。ならば丁度良い。私は、雨の日に自分が用意した最高の場所で、世界の終わりを迎える予定であった。フランチェスカと同じ日が最期の日とは、なんとも皮肉なものだ。と溜息をつく。ゆらゆらとその場所に向かいながら、言葉にならない叫びと涙を流していた。

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