-第11節-
メイザースは喫茶店のドアを開ける。いつもの光景のはずだったが、違和感があった。いつも座る席に、先客が居たのだ。しかし後ろ姿を見て、成程。と合点が行った。
「ハイネマン、打ち上げのつもりか」
ハイネマンは読んでいたフォークナーの『死の床に横たわりて』を閉じて、「いや、まだ終わってはいないだろう? これからだ、これからが、世界を救うという、君の策戦だ」
メイザースは少し本を見て、こう推論する。「君はロスト・ジェネレーションが好きなんだな、それとも、この策戦へのあてつけか?」
「そのどちらもだよ。メイザース」ハイネマンは諦念の表情を浮かべた。「君の策戦には、5人の魔法少女が必要だった。そしてフランチェスカに招集を依頼した条件、それが引っかかってね」
メイザースは注文してもいないのに店主から出された紅茶に砂糖を入れてかき混ぜながら――店主は、ティーポットと大量の砂糖を置いて、席を外してくれた――ハイネマンの表情を探る。「……そうだ。5人、きっかり5人必要だったんだ」
「やはりな。魔法少女は魔法少女を殺せない。信念や希望を折り、倒すことはできるが、殺すことは絶対にできない。魔法少女が握った瞬間、それが人間が作った重火器であっても、戦闘機であっても、発射ボタンを押しただけのミサイルであっても、神秘をまとってしまう。そもそもとして、人間と魔法少女は全く別の存在だ。神秘から生まれいづる魔法少女と、哺乳類として知性と防衛を進化させていった人間では、そもそも別の存在だ」ハイネマンはハードカバーをトントンと指で叩いて言った。「なぜ姿形が似ているか、ではなく、似ていないんだ。魔法少女は全て少女の形をしており、老衰で死ぬとしても歳を取ることはない。故に、人間に似ているのではなく、少女の時代とだけ一致している。だから創造神なんかが居ても、恨むことなんて無い。偶然似ただけだ」
「5人の理由はわかるか?」
「推測だが、わかるよ。5人いればフランチェスカとの比較が可能だ。そして須恵町の近くで活動している魔法少女はきっかり5人だ。君、レヴィナスも知っていただろう? 私が連れてくることを知って、それでもなお、私を遠回しに指定したんだろう?」
メイザースは紅茶をゆっくりと啜る。「当然だ。私はフランチェスカとずっと一緒に汚れた仕事をしてきた。君ほどではないが、せめてこの町の近くは全て知っている」
「随分と分の悪い賭けに出たのだな。ブランショから送られてきた資料を見て、全て理解した」ハイネマンはメイザースをもはや見ていなかった。遠くを眺めて、自分の考えを吐き出す準備をしていた。「そして賭けは成功した。フランチェスカが最後の魔法少女で、その他全ては新世代の魔法少女、全盛期なんて訪れず、ただただ寿命が長くなり、平和な今の世に適応した、また別の生物なのだと」
「私は、世界の終末をパンと紅茶を嗜みながら待つつもりだ。あの資料に目を通して、時代は終わったのだと。私達の時代はね。だから、引導を渡すべきなのだ。フランチェスカにも、私にも」
「だとしたら、だ」ハイネマンは再びメイザースに目を合わせる。
「君こそが、最後の人間なのだな」
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