-第10節-



 メイザースが去ったことを確認してから、メルカトールは自分ができる最大限の力をもってして元素を収束し、小さい光の弾へと変えた。フランチェスカは少し驚く。


「成長したわね、メルカトール」


 メルカトールは答えない。次の一撃が、初撃がその答えになるからだ。しかしこれは牽制のつもり、だからそれで倒す。そういうメルカトールの意図をフランチェスカは汲めなかった。2発目を意識させながら、1撃目が本命である。何も策を弄さなければ、フランチェスカに傷一つつけることはできない。メルカトールはすでに、彼我の戦力差と、そこから予想される行動と対応、そして自分が行うべき攻撃を全てシュミレートしていた。


 収束、本当に小さい光にするまで絞った。レンズのピントを合わせれば、光が集束していくように、そして、あくまでも牽制ということをしっかりと理解らせるように。自分の中から焦点距離を意識し、小さい光でフランチェスカの位置で一番の火力を出せるよう調整する。メルカトールは自分でも驚く。数年前、メイザースに為すすべもなく体術で組み敷かれたとき、こんなことはできなかった。ゆっくりと歩いてくるメイザースに、収束しきれなかった光が全て外れていく様を見て自分の魔法少女の質を知ったのだ。


 だからこそ、もしかしたら、という思いは生まれた。メイザースに負け、フランチェスカと3人で密約を交わした際は勿論最弱の魔法少女であった。では今は。今は違うのではないか、しかしその思考は今論ずるべきではない。すぐさま頭の中からかなぐり捨て、目の前のフランチェスカに集中する。あと少し、あと10秒もあれば、フランチェスカに攻撃を仕掛けられる。フランチェスカは待ってくれている。だからこそ、答えねばなるまい。


 そうして、一条の光がフランチェスカへ発射された。フランチェスカは動じず、しっかりと広げた左手で"吸収"しようとしていた。本来、魔法少女は元素を使役することは可能だが、元素を吸収するという芸当なんてできやしない。だからこそ、これがフランチェスカたる戦法であり、1撃目は牽制と割り切って2撃目に合わせて右腕から自分も攻撃を繰り出す算段であった。


 しかし、ここに両者の誤認識が生まれる。フランチェスカは牽制を本命と思っていなく、そしてここまでの威力とは思っていなかった。メルカトールは自分の力を過小評価しすぎていた。その2点であった。光は一瞬でフランチェスカの手の中に届き、即座に爆発し、体勢を大きく崩される。それを確認することなく、メルカトールは次の行動に出ていた。今のは本命であってもあくまで牽制。総てが全力でなければフランチェスカに全力を出させることはできない。想定していた通り、脚で地面を蹴り、その慣性と元素を使い疾く移動する。今日は幸に不幸にも雪が降っている。元素とは自然中の色んなものの総合、だから今日は元素が濃く、攻めている方がずっと有利であり、メルカトールは防御の想定は一切せずに戦うつもりであった。


 しかしフランチェスカは無意識に空を蹴り上げる。恐らくそれは、戦闘の天才ゆえの防衛本能。メルカトールが直線上で移動してきた場合、絶対にその瞬間にそこにいるという、無意識下の行動。やや遅れたものの、メルカトールの顔を狙っていただろう蹴りは、腹部へ直撃した。苦痛の表情を両者とも浮かべながら、それでもメルカトールは体勢を崩されながらも右腕を振るう。そこら中の全ての元素を自分が使えるだけ使い、まるで大剣のように衝撃波と暴風がフランチェスカを襲った。


 やはり、フランチェスカは戦闘の天才で、稀代の魔法少女であった。その神剣の如き攻撃を、たった右手1つで抑えきった。フランチェスカはこちらのほうを本命と思っていたため、吸収などせず力ずくで押さえつけるつもりであった。そして蹴りの影響で少しだけ、ほんの少しだけメルカトールの攻撃の威力が減っていた。しかしフランチェスカが防戦一方なのは変わらず、仕切り直すために両足で地を蹴り後方へ飛ぶ。しかし、フランチェスカの分析ではメルカトールは遠距離攻撃のほうが強い。先程の収束させる行動はブラフ、2撃目を見る限り、周囲に被害を与えていいならば、一瞬で繰り出せるはずだ。そしてここは、ただただ広い空き地というべき公園。鬼才が生まれて始めて、悪手を取ったと思った。



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