-第6節-

 策戦会議は順調に進み、全員が納得して終わった。各々が喫茶店の扉を開けて出ていくさまを、メイザースとメルカトールが眺めていた。


「……それで? 私に話って」メルカトールが不安そうにメイザースに声をかける。「私には何もできないし、あんなことを聞かされたら……」


「そうだな。君にとって、フランチェスカが全盛期を迎えているのはショックだろう」メイザースはケーキにフォークを刺しながら続ける。「だが、世界を救う事はそれに直結している」


 メルカトールはわからない、といった困惑の表情を浮かべている。


「フランチェスカは老衰で死ぬ。我々魔法少女はほぼ不死ではあるが、不老ではない。特殊な条件下での殺害や、老衰死は当然あり得る。……私も残念だよ。フランチェスカは、生きる時代を間違えた。戦乱の世なら、あの莫大な力を扱い、性格も違ったことだろう。だが彼女は何よりも世界を愛し、世界を救わんとする正義の魔法少女だ。そのためにどんな汚れた手もしてきたんだ。彼女の決意は、尊重して然るべきなんだ」


「私は貴女とフランチェスカに救われたの。その1人が死ぬというのよ。……それも、全盛期、なんてふざけた条件下で。彼女が果敢に戦死するならわかるわ。それは正義を貫こうとして、正義を貫いた結果なのだから。でも、何もできずに死ぬなんて……」


「嗚呼」メイザースはフォークを丁寧に置いて話し出す。「だからこそ、最後に彼女には全力を出して戦ってもらう。相手は……メルカトール、君なんだ」


 メルカトールは驚いた表情をして、すぐさま怒りの声を上げた。「ふざけないで! どうして」


「どうして? それこそ巫山戯ている。フランチェスカには世界を救うという夢の他に、魔法少女として最後の役割を持ってもらう。2つは繋がるし、君が戦わなければならない理由がはっきりとある。私や、他のメンバーではだめだ。メルカトール、君なんだよ。君だけだ」


 メルカトールは怒りの表情から哀れみとも哀しみにともとれる表情に切り替わっていった。メイザースは落ち着きを払って食後の紅茶を啜る。2人の間にはただただ沈黙があった。


「……それで、私が戦うって。どうやって? 知ってるわよね、私に魔法少女の才能がないことを」


 メイザースは首を横にふる。「いや、君にはしっかりと魔法少女の才能はあるよ。私が保証するさ。ただし、フランチェスカに勝てとは言ってないんだ。戦って欲しい。それだけだ。それも正当な理由で、正義と正義をぶつけ合って欲しい。……君にはね、フランチェスカと対立する正義があるはずなんだ」メイザースはまっすぐ、澄んだ目でメルカトールを見つめる。「君とフランチェスカに、歳の差が結構あることはわかるだろう。君は新世代の魔法少女であり、フランチェスカは云わば旧世代の、戦うための魔法少女だ。……ここまでは言いたくないが、引導を渡すべきなんだ」

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