-第5節-



「ここでは、世界が平和になる、ではなく世界を救う方法について議論、そして策戦を考える。異論があるものは?」


 誰も手を挙げない。メイザースは粛々と続ける。


「世界を救う。非常に広大な理想だ。到底無理だと言うしか無い。そして、事実今現在世界は救われている」


「ちょっとまって」フランチェスカが声を上げる。「世界は救われていないわ。貧困、戦争、犯罪、なんだって行われているし、なんだって横行している」


「そうだね、フランチェスカ。しかしそれには目をつむるしか無いんだ。……例えばだよ。私達が裏で手を下している要注意人物。つまり私達も世界を世界を救う事から反対のことをしている」


 フランチェスカは口を噤む。怒りとも悲しみともとれない表情を取る。メイザースにとって、それは自分のように悲しい事であった。


「……続けよう。須恵町というミクロな地点において、世界を救うという、救われている世界への叛逆を行うのはとてもむずかしい。……しかし、私は1つの事で、世界を救うつもりだ」


「異議を唱える」ハイネマンが手を上げた。「確かに、世界は救われているだろう。マイノリティを潰せば、世界は幸福だ。そして君たちは、そのマイノリティの中でも悪と呼ばれるものを消していっていった。だが今回は違う。私達は奇跡なんて起こせない。ただの武力装置だ。その上で、たった1つの手段で世界を救うのは賛成できない」


「ご尤もだな」メイザースは空になったティーカップの横にある水を口に運び、同意した。「だが……」


「いいわ、メイザース。説明しましょう」フランチェスカが急に割り込んできた。「私がメイザースに頼み込んだのは"早急に世界を救う"事。理由は、私がもう長くはないということよ」


 メイザース以外のメンバーは多かれ少なかれ動揺を見せた。特に大きく狼狽えたのはメルカトールだ。


「だからこそすぐさま世界を救ってほしいの。確かにもっと時間をかければ幾つか世界を救う方法が見つかるでしょう。"でもそれでは遅い"。だから、私はこの方法に縋るわ」


 ハイネマンはまじまじとフランチェスカを見つめ、諦めたように目をそらした。


「そ、それって……」メルカトールが恐る恐るフランチェスカに問いを投げかける。「貴女、全盛期になってしまったの……?」


 魔法少女は寿命が短い。その力の代償というべきものだ。そして全盛期とは、魔法少女が全力を出せる状態にして、老衰で死ぬ直前のことだ。


「ええ」フランチェスカは桃色の髪をかき上げる。そこには黒髪が相当数見えた。「普段はね、染めて隠しているのよ。ふふ、可笑しいでしょう? こうまでして、私は世界に縋りたいわ」


 メルカトールは嗚咽した。メルカトールにとって、メイザースとフランチェスカは恩人であり、特にフランチェスカは自分にないものをすべて持っている、理想の存在だ。彼女は世界にとっての偶像だが、メルカトールにとっての偶像とはフランチェスカそのものだった。


「ハイネマン」メイザースが話題を変える。「現存する魔法少女の数を、ブランショは調べることができるか?」


「聞いてみよう」慣れた手付きでハイネマンはスマートフォンに文字を打ち込む。そして直様、「推定ならできるそうだ。200人。たったそれだけだそうだ」


「そうか」メイザースはほくそ笑む。「ならこの方法で世界は救えるな」

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