-第2節-
メルカトールは落ちこぼれの魔法少女だった。唯一の長所は愛想が良いこと。故に、彼女は偶像として魔法少女のプロパガンダに使われていた。表はメルカトールが喧伝し、裏ではフランチェスカが暗躍する。そんな構造を作り出したのは、紛れもなくメイザースであった。よって3人はそれなりの繋がりがあり、メルカトールはその広告塔という外交の末に、いろいろな魔法少女と面識を持っていた。
メイザースが須恵町の高層ビルの受付にアポイントメントを取らずにメルカトールに面会できたのも、メイザースの手腕によるものであった。メルカトールは分刻みのスケジュールを行っているが、メイザースの頼みであればいくらでも時間を作る。そんな魔法少女である。
「珍しいね! お久しぶり、メイザース。最近忙しくてね」メルカトールは秘書や護衛を扉の外へ押しのけて声をあげた。「何かあったの?」
「ああ、フランチェスカの頼みだ。いや、私の頼みか。どちらとも取れるかもな」
「なぁに? そんな言葉を濁して。貴女には返しきれない借りしかないわ。なんでもいって。私には何もできないけど、何でもするから」メルカトールはそれはもう真剣な眼差しでメイザースを見つめていた。
メイザースはたじろぐ。"愚鈍な魔法少女"はメルカトールのこと。これはフランチェスカとメイザースの共通認識であったが、厄介なことに、メルカトールもそれを判っていた。だからこそ、言いにくいのだ。
「なあ……。世界を救いたくはないか?」メイザースは突拍子もない事を聞いた。自分でも虚を突かれ口から出てしまった言葉だった。そしてメイザースは、メルカトールはそれを快諾するだろうと思っていた。
「……できる、ならね」しかしメルカトールは渋い返事をした。「私に何ができるか、なんてね。そう思ってしまって。私が魔法少女だってことを知ったとき、私は誇らしく思った。他人と違う。それだけが、私の心の拠り所だった。だけど、蓋を開けてみたら平凡以下の、ただの魔法少女と名ばかりの偶像だった」
「……」メイザースは口を閉じる。偶像として捏ち上げたのは紛れもなくメイザースであった。だからこその罪悪感がメイザースを包む。
「私になにかできることがあるの……?」メルカトールは口を震わせながら問う。「私なんかに、他に変わりなんていっぱい」
「いや」メイザースは即座に断言した。そこだけは譲れなかった。「メルカトールにしかできないことだ。"他の誰にも出来はしない"。それが今回の依頼だ。引き受けてくれるか?」
「……そう。そうなのね!」メルカトールは少しだけ表情を明るくした。「具体的に、どんなことをすればいいの?」
「表にいる君が、裏に来て欲しい。それだけさ」
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