-第1節-



 「私はね、どうあがいても世界を救いたいんだ。例え私が死ぬことになっても、私が絶望することになっても、私が愛したこの世界は、絶対に救ってみせる」


 フランチェスカと名乗った少女は語る。私はミルクと砂糖をふんだんに入れた紅茶を啜りながら話に耳を傾けていた。


 「だからさ、協力してよ、メイザース。貴女なら私の相棒を任せられるわ」


 「そんな事言われてもさ」と私はティーカップを机にそっと置く。「私はそもそも何をすればいいんだ?」


 「メイザース、貴女は自分の評価を下げすぎているわ。私なんかより、貴女のほうが世界を救うに適している。そもそもとして逆だったわね。貴女が私を手伝うのではなく、私が貴女を手伝う。そういう事。だから命令してよ」


 私は困り果てた顔をしながらまた紅茶を啜る。世界を救う? 馬鹿らしい。そもそもとして彼女――フランチェスカ――は世界最強の魔法少女だ。私なんかの三流魔法少女に何を期待するというのか。自分で救え。それだけの力があるだろう。


 「フランチェスカ、余計なことを言うが、君はどの国の軍隊を敵にしても無傷で帰ってくるだろう。その相手をこてんぱんに撤退させてな。世界を救うというなら、君はもう救ってるぜ?」


 フランチェスカはにこやかに笑って言う。「世界はまだ平和ではないわ。その軍隊、っていうのだって、戦争するためのものじゃない。戦争は平和とは言えない。誰も争わない世界、それを望んでいるのよ、私はね」


 「そうかい。なら軍隊を全て滅ぼしてから……いや、失言だった。軍隊というのは戦争をやるものでもあり、平和を維持する均衡装置だ。適当な返答をしようとしたことを悔いるよ。それと、追加のミルクと砂糖を頂けないかね」


 「メイザース、貴女は頭が回る。完全に世界を救うにはどうしたらいいと思う?」


 「ん。簡単なことさ。統一すればいいんだ。思想をな。ただしこれは10人のグループなら簡単だが、世界全体となると話は別だ。パレートの法則を知っているかい?」


 フランチェスカは首を横にふる。「そんな難しいことは理解らないわ」


 「こいつは経済学での古い法則で、今では否定されているが、実際人間の心理に当てはめるとこいつが働き始める。詰まる所、8割の人間が平和を望んでいても、2割の人間は争いを望むんだ」


 「そんなことはおかしいわ! なぜ争いを望む人達がいるの?」


 「生物は生存競争を生き抜いてきた。彼らが生物である以上、闘争を望まない生物は現れない。10人なら奇跡的に全員が団結するかもしれないが、それは奇跡的なことだ」


 フランチェスカは先程までの笑顔から一転、暗い顔をして俯いた。彼女なりに考えているのであろう。しかし私も策が無いわけではない。


 「なあ、私とあんたでは埒が明かない。もう3人ほど集めたい」


 「……条件は?」フランチェスカは俯いたまま聞いてくる。


 「1人は……そうだな、ワールドウェブに詳しいやつ。もう1人は情報通なやつ。そして最後は、愚鈍なやつだ。そして前提条件として、全員魔法少女だな」


 フランチェスカがぱっとおもてをあげる。その顔はまた笑顔に戻っていた。「全員心当たりがあるわ! 1人は貴女の知り合いよ」

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