恐怖の初体験

銀鮭

第1話  恐怖の初体験

明日で、能登半島地震の発生から二週間を迎える今日1月14日。昼過ぎ頃から私はテレビを観ていた。午後3時少し前だったろうか、画面上部にテロップが出た。


「ん、余震かな……」と見ると、それは【地震情報】ではなく【ニュース速報】で、またあの国がミサイルを発射したという知らせだった。


この【地震】と【ミサイル】の2つの要素が、およそ11年前、正確には2013年4月13日午前5時33分に、私を恐怖のどん底へ突き落したのだった。


つまり核ミサイルの恐怖を……私は体験したのだった。



それは、けたたましい警報で始まったものか、それとも家全体を震わせる圧倒的な震動で始まったものか、私にはまったく記憶がない。

なぜなら、寝ていた私は、警報音と震動に叩き起こされたのだった。


普段であれば、聞きなれない警報音が緊急地震速報であると理解できなくても、激しい揺れは地震であると察知して、気の小さな、怖がりの私は、すぐと逃げ道の確保にあたるのだが、その朝の私は、違った。


ただ腰を浮かせて、その場に立ち尽くすばかりで……対処の仕方がわからない!


「ほんまにミサイル撃ちやがった!」

そう思っていたのだ。


というのもテレビや新聞の報道では10日から15日にかけては北朝鮮がミサイルを発射する恐れがあるとされていたのである。


しかも、日々新たの報道が、その攻撃目標には日本国も含まれているとか、ミサイルには核の搭載も可能であるとか、発射は深夜早朝の場合もあるとか、すべてが悪い情報ばかりで、大いに心配していたところへの地震(淡路島地震マグニチュード6.0震度6弱)であり、てっきり私は北朝鮮のミサイル攻撃であると勘違いしてしまったのだった。


だからミサイル攻撃、あるいは核ミサイル攻撃をいまだかつて経験したことのない私は、ピーピーピーとけたたましく鳴り響く警報音に急かされながらもどうすることもできず、ガタガタと振動する室内に立ち尽くして次のようなことを考えていた。


この振動は衝撃波によるものなのだろうか……。


であればミサイルは今、上空を飛んでいて、どこか近くへ落ちるのではないのか?


もしかして【なんばグランド花月】か……近いぞ!


そのころ吉本新喜劇では将軍様をネタとして扱っていたのだ。


いや、これは衝撃波ではなく爆風だ。


となれば、もうミサイルは近辺で爆発していて、それが核ミサイルであれば放射能が襲ってくる。


あああああ……!


その間10秒ほどもあったろうか、私には、その振動が地面から伝わってくるものではなく、屋外の圧縮された空気が上空から家全体をドドドドッと怒涛の力で押さえつけ、揺り動かしているような感じを受けていたのだ。(あとで鼓膜が、ほんのちょっぴり異常だった。)


そうして、少し落ち着いたころ合いを見てテレビをつけると、画面には近畿東海、中国四国地方の地図が現れ、黄色く塗りつぶされたその中で、淡路島だけに赤い×点が打ってあって、それをみた私は、一瞬、


「淡路島にミサイルが落ちたんだ!」 


と思ったほどであり、私は、この地震の揺れを、まったく経験したことのない核ミサイルのものだと信じて、地震とは違った恐ろしい感情で体験することができたのであった。



あの時から、11年近くなるなる。

地震はまったく慣れることはない。ますます怖い。恐ろしい。


しかし、勘違いとはいえ恐怖した核ミサイルは、今では慣れてしまっている。

ちなみに今日飛んできたのは弾道ミサイルで、日本の排他的経済水域(EEZ)の外の日本海に落ちたとみられるという。


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恐怖の初体験 銀鮭 @dowa45man

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