第17話 絵梨の追求

 四人が帰った後の店では、絵莉がしきりに俺に絡んでくる。俺の周りをぐるぐる回り、観察している。そんな彼女を見ているこちらの方がおかしくなる。


「やっぱり、何か予感がするんですね」


 と腕組みをしたり、唇を舐めたりしている。


「……そんなことない」

「ふ~む」


 と言いながら、もう一回りする。まるで犬のよう。

 

「大ありって、顔に書いてあります。今度はいい予感なんでしょ。彼女だいぶ迷っていたから、自分で決められなくて、誰かの助言が欲しかった。そこで、建人さんの顔を見た。建人さんも渡りに船とばかりに、彼女の心の奥底にある欲求を見抜き……」

「ま~った。もう、ちょっと待ってくれよ。想像がたくましいなあ、君は」


 今度は、俺の方ににじり寄ってきた。ほとんどぴったりくっついた状態。そんなに刺激するなよ。しかも下から見上げてる。視線で悩殺しようっていうのか。


「あの亜里沙さんっていう高校生、何度か来店したことがあるんですよね」

「まあね」

「彼女とはどのくらいお話したことがあるんですか?」


 今度は真面目な顔をした。七変化だ。


「そうだな、5~6回ぐらいかな。数えてないからはっきりとはわからないけど。一度や二度ではないと思う」


 絵梨は顎に手を置き考えている。


「それで、彼女とはどの程度プライベートな話をしたんですか?」

「プライベートな話は全くしていない。結構勉強熱心な高校生だってことはわかった。ノートにびっしり書かれた文字はとても綺麗だし、要点がまとまっている。かなり頭のいい子だと思う」

「性格は?」

「慎重ではにかみ屋だってこともわかる。だが、思い切って未知のことにチャレンジすることは苦手だ」

「まあ、それは私もわかりました。初めてのスノボーはかなり怖がっていましたから。彼氏はいるんでしょうか?」

「いない」

「はっきり断言できるんですね。もしかして質問しました?」

「そんなこと聞けるはずがないじゃないか。まったくの俺の勘だよ。当たっているかどうかはわからない」


 彼女ににじり寄られながらも、必死で抜け出し俺はコーヒーを淹れた。


 彼女の前にカップを差し出す。


「これでも飲んで」

「わあ! 店長が淹れたコーヒー、ただで飲めるなんてラッキーです! 仕事中ず~っと匂いを嗅ぐだけで、飲むのはこれが一杯目です」

「そう、じゃよかった」


 カップを両手で握りしめてふ~っと息を吹きかける。


「う~ん、良い香り……」


 ごくり。


 まだまだ開放してくれそうにないだろし、今日は彼女の話に付き合うのもいいか。彼女の好奇心旺盛な顔を見てるのも悪くないし、くるくる回ってる姿は猫のようだ。

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