第11話 二人でドライブ

 春さんの勧めがあったので、それならと勢いで彼女を誘った。絵梨も乗り気になっている。


 さっそく、今度の休日は二人でドライブだ。俺は山の方へ行こうと持ち掛けるとそれもためらうことなくオーケーだった。知り会って一週間しかたっていない女の子とドライブへ行くことなんて初めてだ。


 絵梨には目に見えないバリアがあって、手を出そうものなら感電するのではないかというほどのパワーを感じる。だが、すんなりドライブへ行くことを承諾したのだから、案外簡単に彼女になるかもしれないし、向こうはそのつもりなのかもしれない。


 前日は気持ちが昂ぶって、よく眠れなかった。彼女はどうだろうか。


 ここは気持ちを探ってみよう。


「男性と二人でドライブって、抵抗なかった?」

「それは……ありません! 信頼してますから」


 俺のことを安全だと思っていったのかな。それはそれで困るな。


 さて、面白くなるぞ。


 ちょっと冒険してみるか!


 店を春さんにお任せして、さっそく出発。何度か行ったことがあり、自分にとっては勝手知ったる山だ。庭を歩くようなもの。


 街を外れると道は次第に狭まり、カーブが多くなってくる。車はさほど多くなく、時たま対向車がある程度だ。バスや大型トラックなどとすれ違うと、多少緊張感はするが。まあ、それも承知の上、慣れたコースだ。


 だが絵梨は揺れるたびに、「おお~」とか、「きゃ~っ」と高い声を出す。こちらの計算通り、嫌がりながらも次第に興奮状態になっている。


「ハハハ……そんなに興奮しないで」」

「これが興奮せずにはいられますか。急カーブで体が左右に降られて、どうかなりそう」


 そういうのも気分がいいものだ。怖いのを知りながらジェットコースターに乗り、叫び声をあげる女の子を見ればわかる。そういう状況を楽しみたい気持ちが誰にもあるんだ。


「これからどんどん傾斜がきつくなっていくから、下を見ない方がいいよ」


 と脅かしてみる。そういわれると、見たくなるのが人間の本能。きっと見てしまうだろう。


「わあ、本当、怖い」


 やっぱり言わないこっちゃない。


「だから、見ない方がいいって言ったでしょ」

「わあ~~ん、怖いよ~~!」


 これはお化け屋敷を怖がるのと同じ理屈だ。怖いと言いながら入っていき、震えたり叫んだりする。


「こういうところ、ええとこんな上り坂の道あんまり通ったことない?」

「遠足とかではあるけど、私車の運転ができないし、自分で旅行したりもしないから、慣れてないなあ」

「大丈夫、ジェットコースターみたいに回転したり急に滑り落ちたりしないから。俺は運転は上手な方なんだ」

「だって……動きが……予測不能なんだもの」


 へえ、彼女の視線かなり鋭かったし、人の心はお見通しみたいな気配があったのに、環境の変化に関しては予測不可能なのか。


 まあ、でも少なくとも嫌そうではなかった。


 そして、車に揺られること一時間、そろそろ到着だ。助手席からは、歓声が聞こえなくなってきた。


 おやおや、大丈夫かな。


 車を止めて彼女の顔をじっと見てみると……。車酔いしてしまったのかな。


「大丈夫? 顔色が悪そう……」

「ふう……ようやくつきましたか?」

「到着! さあ、降りよう」

「ようやく着いたんですね……ここは」

「山の中腹の駐車場。車を止めて、今度はハイキング」


 さりげなくいうと、肩をがっくりと落としてしまった。ちょっとかわいそうだったかな。

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