第10話 従姉(いとこ)が来た

 ドアが開いて一人の女性がやってきた。ショートカットの髪形がよく似合っている。スポーティーで明るい印象を与える。一瞬でその場が華やかになるような女性だ。


「いらっしゃいませ」


 と絵梨が声をかけた。入ってきたのは母方のいとこの春ちゃん。


 新しいバイトの女の子が入ったって聞いて、さっそく偵察に来たようだ。


「ああ、春ちゃん、こちら新しく入ったバイトの……」

「木沢絵梨です、よろしくお願いします!」


 急に元気づいた。


「いとこの松永春です。よろしくね。私より、年下……よね」

「そうでもないです」


 本人は絶対そうだと思っているようだが、控えめに答えている。


「やっぱり、若いわよ~~」


 俺は時々来ている彼女のことを説明した。


「こちら春ちゃん、一児の母で子育て奮闘中。時々手伝いに来てくれてる」

「小学校へ上がる前の女の子がいるの。だんだん大人の真似をするようになるわ」

「咲希ちゃんっていって、すごく可愛いんだ」

「今ごろ幼稚園でくしゃみしてるわよ。おじさんに褒められることってめったにないんだから」

「そんなことはない」

「ここへ来ると私の真似していらっしゃいませって言ってみたり、ケーキ一緒に作りたいって駄々をこねたり、大変だものね」

「まあ、そんなもんだよ、子供って」

「へえ、いいパパになりそう」

「さあ、どうだろうな」


 春ちゃん、他の人がいてもあまり意識しないでしゃべりだすんだよな。

 

「おじさんとおばさんがやってた時から手伝ってたから、まあ勝手知ったる我が家みたいなものね。建人君がやりにくくなければ」

「助かってます」

「それならいいわ」」


 二人は顔を見合わせて笑った。


「さあ、座って。飲み物は何がいい?」

「さあてっと、今日はちょっと冷たいものでも飲んでいこうかな」

「ええっと、特製のレモンスカッシュはどう?」

「おお、喉が渇いてるの、ありがたいわ」

「絵梨さんといったわね、あなたお休みの日にはよく出かけたりする?」

「はい、近所の公園を歩いたり、街中をぶらついたり」


 そういうのは出かけたりするうちに入るのだろうか。日頃のルーティーンのような気がするが。


「そう。建人はドライブにハイキングに、そうそうサーフィンにスキーに、かなりのアウトドア派なのよね」

「そんなに宣伝するなよ。遊び人みたいに聞こえるじゃないか。出かけるのは好きだけどね」

「わあ、オールシーズンいろいろなところへ行くんですね。それにスポーツができて羨ましい」

「行きたければ一緒に行く?」

「ええ~~っ、いいんですか。嬉しい。ぜひ誘ってください。私もスポーツは結構好きですから」


 絵梨の目が輝いた。


「いいじゃない、一人で行くより二人の方が絶対楽しいもんね」

「ああ、それじゃ、二人で出かけるときはお店の方は春ちゃんよろしく」

「任せといて!」


 春ちゃん、絵梨さんのことが結構気に入ったようだ。彼女の方を見ると、頬が少し赤みがかっている。まんざらでもなさそうだ。


「ごちそうさま、やっぱり特性レモンスカッシュ美味しいわあ。レモンまで美味しい」


といって、春ちゃんははちみつ漬けのレモンをむしゃむしゃと食べてから、店を後にした。

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