第十話 成人の儀と古代兵器 1
「ルイ様、ここにいらしたのですね」
「アリエッタか……ふっ、やはりアリエッタには見つかってしまったな」
成人の儀を明日に控えているのにルイ様の姿が見えなくて、フラッとフェリックスの小屋を訪れたところ、ルイ様は丸くなったフェリックスのとぐろの中にいた。
ゴロゴロ喉を鳴らしてルイ様に甘えるフェリックスと、そんなフェリックスに寄りかかりながら身体を撫でるルイ様。夕陽が小屋に差し込んで神々しくて、思わず両手を合わせてしまった。
「……じゃなくて。さあ、ルイ様! 夕飯のお時間です。明日に備えてマルディラムさんが腕によりをかけたと言っていましたよ」
「……ああ」
ルイ様は頷きつつもフェリックスから離れようとしない。仕方がないので、私も「よいしょ」とフェリックスの身体をよじ登ってルイ様の隣に滑り込んだ。
「アリエッタ?」
「……大丈夫ですよ。ルイ様からきっと成し遂げられます」
ポフッとルイ様にもたれ掛かりながら、あえて何でもないように伝えた。
「……アリエッタには全てお見通しだな」
ルイ様はクシャッと前髪をかき上げ、私の腰にするりと腕を回した。そして、私の肩に額を押し付けて深く息を吐いた。
身体は私よりずっと大きいはずなのに、今目の前にいるルイ様は、出会った頃のように小さくて儚く見える。
「正直なところ、少しだけ不安なんだ。全盛期の魔王としての力を取り戻し、歴代の記憶を引き継ぐことが……成人の儀を終えてからも余は、変わらず余のままいられるのだろうか」
ルイ様が不安に思っていることは、実は私も気になっていた。けれど、先日ウェインさんが教えてくれた。記憶が戻っても、ルイ様はルイ様に変わりがないって。
私はあやすようにやんわりとルイ様の艶やかな黒髪を撫でた。
今だけは子供扱いしてもいいでしょう。
「大丈夫ですよ。力が戻ろうと、記憶が戻ろうと、ルイ様はルイ様です。――アリエッタがずっと大好きなルイ様のままですよ」
私の言葉に、ルイ様がピクリと反応する。
「…………そうか」
ルイ様は頭を撫でていた私の手を掴むと、そっとご自身の頬に当てた。私は少し戸惑ったものの、手のひらに触れたルイ様の頬をゆっくり撫でた。
「久々に、大好きだと言ってくれたな」
「そ、それは……あれです。いつものやつです」
ついさっきまで萎れていたはずが、目にギラギラとした光を携え始めたルイ様。切り替えが早いですね⁉︎
さっきまで垣間見えていた子供っぽさが一瞬で消えてしまい、すっかりオスの顔をしている。ルイ様は目を眇めながら自ら私の手に頬を擦り付けてきた。切れ長の目が憎らしいほどに色っぽい。
「アリエッタ。明日、世界樹まで見送ってくれないか?」
「え……私がですか?」
不意に尋ねられた問いに、思わず自分を人差し指で指して確認してしまう。
「ああ、アリエッタ以外にいないだろう?」
ルイ様はクスクスとおかしそうに肩を揺らしている。
確かに今この場には私とルイ様、そしてフェリックスしかいない。
「そして成人の儀を終えたら、真っ先にアリエッタに会いに来よう。湖での返事も聞かねばならんしな」
「う……」
金色の目で上目遣いに見上げてくるルイ様は相変わらず自分の魅力をよくご存知でいらっしゃる。単純な私は簡単にキュンッと胸が疼いて頬が熱を持つ。
ルイ様は私の左手を掬うと、薬指に嵌められた指輪に唇を落とした。
「この指輪があれば、アリエッタがどこにいようともすぐに駆け付けることができる。だから、余の帰りを待っていて欲しい。覚醒した余を見て、触れて、答えを聞かせてくれ」
「……はい」
真っ赤な顔を隠すように俯くと、ルイ様は腰に添えていた手に力を入れて私の身体を強く抱き寄せた。
耳元にルイ様の熱い吐息がかかって身体が強張る。
「――本当は、覚醒した時にこの気持ちを失くしてしまわないかが一番不安だったのだ。アリエッタを愛し、求めてやまないこの燃えるような想いを……だが、杞憂だった。もし気持ちを失っても、アリエッタに会えばきっと余はまたアリエッタに惹かれ、恋焦がれるのだろう。まあ、この気持ちもアリエッタも失うつもりは毛頭ないがな」
「ルイ様…………忘れないでくださいね」
これまでルイ様と過ごしてきた日々、育ててきた信頼と想い。そのどれもが輝いていて、かけがえのないものだから。
「ああ、絶対に忘れない。アリエッタ、愛している」
耳から脳に直接語りかけるように、ルイ様が愛の言葉を囁く。
「る、ルイ様……そろそろ離してください。身体が茹って蒸発してしまいます」
「いやだ、と言いたいところだが、そんなに可愛いことを言われては仕方がないな」
ルイ様はフッと吐息を漏らすと、ようやく私を解放してくれた。そしてフニッと鼻先をくっつけてきた。
「ぴっ」
「では、食堂へ向かおうか。マルディラムがそろそろ待ちくたびれているだろう」
「……はい」
「……キュー」
早く行けと言いたげなフェリックスの鳴き声に背を押されながら、私たちは手を繋いで城内へと戻った。
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