閑話 深夜の緊急会議②
「なに⁉︎ ピクニック、だと?」
アリエッタとミーシャが晩酌をした翌日、家臣の魔物たちは再び会議室に集まっていた。
本日の議題は、『ルイス様とワクワクピクニック』である。
心なしか魔物たちは落ち着きがなく浮き足立っている。
「そう。アリエッタちゃんが提案してくれたんだけどね。とっても楽しそうじゃなあい?」
本日の会議の収集者であるミーシャが楽しそうに議題が書かれた黒い壁の前で仁王立ちをしている。
なぜか手には指示棒を握り締め、黒縁眼鏡をかけている。尚、レンズは入っていない様子である。
「なるほど。ルイス様は毎日勉学に励んでおられる。息抜きに、ということですね?」
「あら、ウェイン。さっすが、飲み込みが早いわねえ」
即座にピクニックの目的を察したウェインに、ビシッと指示棒を向けるミーシャ。
「これ、相手に向けるものではありませんよ」と叱られていたが、なぜかほんのりと頬を染めて謝っていた。
「ふ、ふむ。良いのではないか? じゃが……誰が同行するのだ?」
骸骨のカロンはどことなくソワソワした様子である。
「あら、ピクニックだもの。多い方が楽しいじゃない? もちろんここにいるみんなと、ルイス様、それにアリエッタちゃんよ」
「そ、そうか。ワシも含まれておるのじゃな。ふむ、まあ、そうじゃな。忙しいのじゃが、他でもないルイス様とのピクニックじゃ。なんとか時間を捻出しよう。ワシは忙しいのじゃがな!」
当たり前のようにミーシャが答え、カロンはどことなく嬉しそうに頬骨を掻いている。
「それにしても、ピクニックとは……小娘も粋なことを考えるではないか。今度会ったら褒めてやろう」
カラカラと骨を鳴らしながら、カロンがブツブツ独り言つ。骨の鳴り方からしてよっぽど嬉しいのだということが見え見えで、周囲の魔物たちは温かな笑みを浮かべている。
「それで、目的地は決まっておるのか?」
腕組みをしながらマルディラムが尋ねる。
「それよそれ」とミーシャは嬉しそうに指示棒をブンブン振っている。
「行き先はまだ決まっていないわ。誰か、いい場所を知らなあい? アリエッタちゃんも魔界に来てから外にほとんど出てないじゃない? だからもっともっと魔界のことを好きになれるような、そんな場所に行きたいのよう」
ミーシャの心の内を聞き、一同も同意するように頷いた。勇者一行と共に、突然魔界にやってきたかと思ったら、勇者たちをあっさり人間界に送り返して自分は魔界に残りたいと言った稀有な人間。
よほどの変わり者であるが、この一ヶ月でみんなアリエッタを仲間として受け入れていた。
それに、魔界での生活を心から楽しんでおり、魔界を好いていてくれることも彼女の様子から明らかだ。そんな彼女の喜ぶ顔が見たいと思うのも、共通の願望である。
「そうですね、城の裏にある山に登るのもいいでしょう。山頂近くに開けた場所があり、そこには泉も湧いています」
「南の丘も綺麗だぞ。一面花が咲き誇っている」
「少し遠いが、海辺もいいやもしれんのう。ついでに海の幸もいただいてのう」
「おや、海の幸か。いいな」
新鮮な食材の予感にマルディラムの目が光る。目はないのだが。
「海や川ならば、現地で調達した魚をその場で焼いて食すのもまた一興。ふむ、となると行き先を一つに絞るのは難解だな」
「そおねえ……まあ、行き先はたっくさんあるのだもの。一回きりではなくてまた企画すればいいのよお」
テーブルに肘をつき、ミーシャは楽しそうにお尻を振る。付き合いが長く彼女の色香も浴び慣れた一同が動揺することはない。
「ならば、まずは近場から。南の丘が道のりも緩やかで景観もいい。今回はそちらで決めてはいかがでしょうか」
「賛成~!」
「ふむ、いいのではないか」
「ワシも異論はない」
こうして第一回ルイス様とワクワクピクニックの行き先は、城の南に位置する小高い丘へと決まったのだった。
無事に行き先も決まり、パラパラと会議室から家臣らが去っていく。当日の持ち物はどうしようか、服装は、弁当は、と各々が嬉々として準備のために散っていく。
なんとも平和な緊急会議であった。
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