終わらない拷問
日乃本 出(ひのもと いずる)
終わらない拷問
いったい、いつからだったろう。
俺がこの真っ暗な暗闇の中に閉じ込められてしまったのは。
気づいたらこの闇の中に放り込まれていた。
この暗闇から逃げ出そうと身じろぎしようとしても、俺の身体は金縛りにあってしまったかのように動かなかった。
いったい、なぜこんなことになってしまったのだろう。
思い出そうとしても、何も思い出せない。
だが、どうなったかを論じるより、これからどうするかを考えるのが先決だ。
なぜなら、一定の時間がくると俺はひどい拷問にかけられてしまうのだ。
その時ばかりは明るい場所に引きずり出されるのだが、たとえ明るい場所に出されたとしても、そこに苦痛がともなっているのだからたまったものではない。
それにあの拷問のひどさといったら。
じわじわと恐怖を味わわされながら、最後にはとてつもない痛みが襲ってくる、あの拷問。ああ、思い出すだけでも身の毛がよだってくる。
早くこの地獄から抜け出さなければならない。
だが、どうすればここから脱出できるのか。
いつもその難題にぶちあたり、そのことを考えている間に、あの時間がやってくる。
拷問の時間。
逃げ出すことのできない、究極の苦痛の時間。
いっそ、死んでしまおうかと思ったこともある。
だが身体を動かすことのできない俺は、自分の命を絶つことさえもできない。
結局、苦痛の時間は永遠に続くのだ。
ちくしょう、ふざけやがって。この世に神なぞ存在しないのか。
ああ! なんてこった!
地を揺らすような足音が聞こえてきた!
拷問の時間がやってきた!
助けてくれと叫ぼうとしたところで、それが無駄だということはよくわかっていた。
無力感に支配される俺の頭上から、目もくらむような明かりがさしこんでくる。
その明かりをさえぎるように、巨大な手が俺の身体をむんずとつかむ。
頼む! やめてくれ!
そんな俺の願いは届くことなく、俺はその巨大な手によって、ぐいと持ち上げられていく。
そして拷問の舞台である、タルの中へと身体をねじ込まれる。
やめてくれ! もう勘弁してくれ!
必死な俺をあざけるように、目の前に拷問用の剣が並べられる。腹立たしいことに、その剣は赤だの青だの緑だのと、色んなバリエーションの色をしていやがる。
奴らは拷問を楽しんでいやがるんだ。
俺の背丈の数十倍はある巨人共。奴らの甲高い笑い声が、俺をさらなる絶望へと誘っていく。
すると、巨人共が剣を手に取り始めた。拷問開始の合図だ。
待て! 待ってくれ!
だが奴らは無慈悲にも、俺がねじ込まれたタルへと剣を突き刺しはじめた。
だからといって、タルに突き刺された剣が俺に突き刺さるわけではない。
このタルはちょっと特殊な構造になっているのだ。
タルにはいくつかの穴が開いており、巨人共はその穴に向かって剣を刺している。
穴は直接俺につながっているわけではないのだが、その穴の中の一つに、ある仕掛けが施されているのだ。
ああ! 考えただけでも恐ろしい!
その仕掛けが施された穴に剣が突き刺さった時、俺は天空高くへとタルから吹き飛ばされてしまうのだ!
身体が動かないから当然着地なんかできるわけがない。だから俺はいつも頭上から地面へと激突し、その形容のできないほどの激しい痛みが俺に襲ってくるのだ!
やめてくれ! あんな思いはもうしたくないんだ! 許してくれ!
しかし巨人共が剣を突き刺す手を止めることはなかった。むしろ奴らは、突き刺す穴が少なくなってくるほど、楽しそうな声をあげるのだ。
巨人共の楽しげな声とは裏腹に、穴が少なくなればなるほど、剣が突き刺されるたびに俺は背筋が凍っていく。
気づけば、残った穴は後四つだけになっていた。つまり、後四回以内に、俺は空へと吹き飛ばされてしまうということだ。
嫌だ! やめてくれ! やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!
巨人共の笑い声が聞こえる。そして勢いよく剣がタルにさされた。
その途端。下半身に強烈な衝撃が走った。そして俺の身体は空へと吹き飛ばされ、落下する寸前の一瞬の無重力が俺を襲う。
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
声にならない絶叫。巨人共のあげる、耳をつんざくほどの高笑い。
やがて俺に落下感が襲いかかり、視界に地面が迫ってきて…………。
「あ~あ、負けちゃった!」
子供たちが大きな笑い声をあげていた。その手には、眼帯姿で赤いバンダナをつけた海賊の人形がもたれていた。
そして子供たちはその人形をおもちゃのタルに差し込んで、タルに開けられている穴の中へとプラスチックの短剣を突き刺していく。
やがて先ほどと同じように、海賊の人形は宙を舞うことになるだろう。そして同じように、地面に頭から落ちるだろう。
そうして子供たちがひとしきり遊んだ後、海賊の人形は、タルと短剣と共に暗闇が支配する箱の中へと押し込められてしまうのだ。
黒ひげ危機一髪と書かれた箱の中へと。
終わらない拷問 日乃本 出(ひのもと いずる) @kitakusuo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます