夏の虚空
夏休みに入り、出された終わりそうにない宿題に手をつける。部活や生徒会で登校することがないだけ良いのかもしれない。そもそもクーラーは初期装備ではなく、アイテムと交換するようなものだった。故に設置していない家もある。昨今の異常な暑さから設置に踏み切った家庭も多く、周りの普及率が上がっている。学校も各教室にも設置しようという流れになっている。学校が動くほど相当な暑さであるらしい。設置される頃には学生じゃない可能性の方が高いっちゃ高いのだが。
(『救済班』の動きもない…)
暇だと伸びている余裕はないのだが、何せやる気が起きない。
(ゆずちゃんなんかは計画的に進めているんだろうなぁ…)
大の字に寝っ転がって天井を見上げる。
(なんで生きてるんだろ…)
一人で過ごすリビングのフローリングが少し冷たくて。木の硬さが少し痛くて。生を実感せざるを得ない。
昔から疑問だった。なぜ夏はこんなにも死にたくなるのか。空の青さはなぜこんなにも気力を奪うのか。ネットを始めるようになってから知った『自殺予防週間』はなぜ夏しか見ないのか。海だ山だ、キャンプだバーベキューだという広告とは真逆に、とてもいまを楽しめる気がしない。空の青さが俺の気力を奪う。やってらんねぇ…。だから目を閉じる。あれほど眠るのに苦労する夜が嘘みたいに昼間は、よく眠れる。
一生目覚めなければ…なんて夢は叶わず、夕飯だと起こされる。もうそんな時間か…と現実から目を背けたかった。
「おかえり〜…」
「ん、で。今日はなにしてたの?」
「寝てた。あとゲームした」
「それだけ?」
「それだけ」
「…そう」
夕食を二人で食べながら訊かれる。BGM代わりに流れるテレビが独り歩きしているように楽しげだ。
「宿題はしなかったの?」
「しなかった」
「…なんで?」
口に含んだ白米を無理やり飲み込む。
「やる気が起きなかったから」
「…はい?」
やってしまった。
「毎年、やっても結局進まなかったよねぇ?なんでやろうとしないの?」
「なんでって…」
言えるはずがない。言ったところで、無駄だから…。
「母さんは理由を聞いてるの。答えられない理由でもあるの?」
「ない、けど…」
「けど、なに?黙ってないで答えて」
「つかれてた、から…」
「一日中家にいて、疲れてるってなに。母さんは朝から働いてくたくたなの。それでもアンタのご飯作ったでしょ⁈なに言ってんの?」
「ごめんなさい…」
あぁ、やっぱり。こうなっちゃった。わかってた。わかってたけど、やっぱりきついな。具合悪くなってきた…。でもこんなの、今更じゃん。いつもみたいに、ほら、何も感じないように。…上出来。
母の小言を、将来どうするの、進級は?とかそういう話を、適当に相槌打って終わらせてさっさと自室へと逃げた。
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