少年と私

 学校終わり、徒歩で帰ろうと思い立った。もし死ねたら良いなぁ〜という軽い気持ちで。

 十分ほど坂道を下って、コンビニや公園など、人里感が濃くなる。普段、人気のない公園に幼い子供がひとり、ブランコに座っていた。それ自体、たまたまかもしれない。だが、違和感を覚えた。

「少年」

 声をかけずにはいられなくて。彼は顔を上げて私を見た。なにも言わない。

「ここに、どのくらいいるんだ?」

 彼の前にしゃがんで目線を合わせる。

「学校終わってから…」

 小さく答えた声は震えていた。

「…そうか。隣、座ってもいいかい?」

「ん」

 まるで昔の自分を見ているようだ。

 志弦と会った雪の日の神社。自分は怪しくないと言われ、『怪しい人はみんなそう言う』と返したあれが懐かしい。じゃあ自分はなんて声をかける?自分が小学生だったあの頃より、他人を警戒しなくてはならないこの時代に。

 暫くの沈黙の後、少年がこぼした。

「…お姉さんから、さみしい匂いがする」

「ん…?」

「ごめんなさい、変なこと言ったかも…」

「んーや、大丈夫だぞ?」

 妖が見えたり、戦ったりする世界だ。感情が匂いとして感じ取れてもおかしくない。いままで、そういう人と関わって来なかった、そういう人だと知らず関わってきたから新鮮なだけで。にしても、この子はあまり人を警戒しないな。

「僕ね、帰っても誰もいないんだ。一人っ子で、ママもパパも夜遅くに帰ってくる。パパは外で呑んでくることが多くて、いつもママを怒ってる。だから、ママが帰るくらいまでその辺テキトーに歩いてるの。今日はたまたま公園に来て、お姉さんに見つかった」

 うーーん、なんだこの既知感。この子の親、父親はだいじょばないな。

「あれ、変。僕、なんでこんなに喋っちゃったんだろう。嫌な話してごめんね」

「ううん。大丈夫だよ、少年。昔の私を見ているような気持ちになっただけだから」

「うん…?僕は男の子だよ?」

「ふふっ、そうだな。でも私にはそう見えたんだよ」

「そうなんだ…?」

「そうだよ?」

 立ち上がってひとつ、深呼吸をする。

「じゃあ、私はそろそろ行くな。気をつけて帰るんだぞ、少年」

「うん」

 死んでもいいなって思ってたのは何故だったか、そんなことを考えながらバス停に向かった。

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