無気力とともに
七月も数日が過ぎ、二十五度を超える日が続く。教室にクーラーはなく、当然、一般家庭にも少ない。三十五度に迫ることになる夏を扇風機一台、ないし二台で凌ぐ。図書室やパソコンルーム、音楽室と保健室にはエアコンがある。一年A組といった教室には全クラス、風力の弱い扇風機が一台振り分けられている程度。
「あっつい…」
これが飾らない率直な感想である。
昼間に聞こえる救急車のサイレンは頻度が増した。土日になれば『またか…』と思う暇もないほど聞こえてくる。そして、こんな時期にやってくるのが学祭だ。
翔空は九月末に行われるが、他校は今週末や来週末にあるとネットで見た。
(くっそ暑いのにお疲れ様でーす…)
熱中症も学祭も、他人事のようにTLの彼方に飛ばしていく。
(なんのやる気も起きない…)
それは暑さのせいか、そもそもの自分の無気力か。フローリング…教室でも、もし一人だったら、大の字になって涼んでいるのに。なお、教室の場合、誰かに見つかったらめんどくさい模様。
授業に全部出て、帰りのHRを済ませて、家に帰る。
「ただいま〜」
「…おかえり」
「起きてたんだ、
「まぁ、な…」
琉泉はリビングの椅子でスマホを眺めていた。
「今日は起きれたんだ」
「そっか。ごはん、食べれそう?暑いから食欲ない?」
「今日は、食べれそう。瑠永の味噌汁、食べたいな。火の前に立ちたくないなら全然良いんだけど…」
「ううん。作る。そうだ、兄さん。風呂はどうする?入れそうなら汗流して来なよ。今日はさっぱりして寝な?」
「そうしようかな。ありがとう、瑠永」
「ん」
制服をスカートとシャツだけ残して洗濯機に投げ入れ、お風呂を沸かす。無洗米を四分の三合と水を入れて、炊飯のボタンを押す。玉ねぎ、ほうれん草、豆腐と味噌を取り出して切っていく。
玉ねぎを食べやすい大きさに切って、ほうれん草を二株、食べやすい大きさに切る。豆腐は適当。弱火から中火で玉ねぎが透明になるまで火にかける。水は普段使いのコップが満杯になるくらい。水をほうれん草を入れる前と後に分けて入れる。しなっとしてきたら豆腐を入れて水分を飛ばす。熱い味噌汁を少し冷ますついでに別のコンロにフライパンを置いて薄く油を引く。卵を三つといて液体状のうちに醤油を入れて水分を飛ばす。ホロホロしたら皿に盛り付ける。それから味噌汁を二つのお椀に入れる。米が炊けるのとほぼ同時に味噌汁ができた。ちょうど、琉泉も風呂から上がった。
(ふっふ〜ん♪天才☆)
「あがった」
「こっちもご飯できたよ〜」
Tシャツと夏用の短パン。肩にはバスタオルがかかってる。
「食べれるだけでいいから食べなね」
「うん、ありがとう」
食卓に二人分の食事が並ぶ。二人で食べるのは久々で昔のような懐かしさ。
「あのね、兄さん」
「ん?」
「私、高校で小学校一緒の子と会えたんだ、二人も」
「すごいな」
「それで、高校から知り合った子と四人で過ごすことが多いんだけど、なんかみんな、似てる気がするんだよね」
「似てる…?」
「大きなものを抱えてるの。二人は明らかにそうなんだけど、その、高校から知り合った子もおんなじように。でもそれがわからない」
「そっか。…いまはわからなくてもいいんじゃない?ただの友達でいる時間も大切だろ?」
「確かに」
「ごちそうさま」
「ん」
琉泉が先に食べ終わる。
「瑠永、今日は洗い物、俺がやるよ」
「えっ…⁈」
「やらせてほしいんだ」
「うん、わかった…?」
瑠永も食器を下げて気づいた。
「兄さん、今日全部食べれたんだ…」
「うん。凄いだろ」
「うん…、!」
声は不調が滲み出た低い声ではあるものの、妹に向けた笑顔は本物だった。
「じゃあ私、もう少ししたらお風呂入ってくるね」
「おう」
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