夜明け

 七月に入って二十五度を観測し、これから夏本番を思わせる。ここ数年の異常気象のせいか、三十五度に迫ろうとしている気温に文句を垂れ流した。自分が小学生の頃はせいぜい上がって三十度だったはずなのに。

 月が変わってゆかりが学校に顔を出すようになった。いつものナンゼロを覗く。

「……。、」

(誰も、いない。瑠永もいない、か…)

 机に鞄を下ろして椅子に座る。

「学校…」

 機械音のような、何かが流れているような音が聞こえるだけで、それ以外は何も聞こえない。『静寂』というには雑音が多い。

(…?)

「おはようございます、ゆかりさま」

「おはよう、癒月ちゃん」

「久々にお会いできて嬉しいです」

「私もだよ」

 癒月が机に荷物を置く。

「私、六月はまるまる登校しないんだ。流石に定期考査は別室で受けるけど。だから来年もおんなじ感じ」

「そう、なんですね。何か故あってのことだと思うから、無理はしないでね」

「うん」

 癒月は少し翳った表情を見逃さなかったが、それが意味することが何なのかがわからなかった。

「やっほー」

「どーもでーす」

 瑠永と志弦が顔を出す。

「おひさじゃねぇか」

「うん、久しぶり」

「無事来れたようでよかったわ」

「ん」


「ちょっと早いけどさ、月末に花火大会があるんよ。五千発とか上がるどでかいやつが。一緒に行かん?」

 志弦の提案にゆかりは「行こ行こ!」と賛成する。が、癒月はすぐに返事ができなかった。

「瑠永さまは、平気?」

「…なんで、私?問題ない」

(本当、かな…。信じるしかできないかも)

「じゃー行こ!俺、日程調べとくからわかったら『救済班』に送るね!」

「了解」「わかった」「ん」

 『救済班』。

 グループの名前。

 それぞれが他の三人を救いたいと命名した、四本の糸で紡がれたひとつの物語。

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