会えた

 翔空では無事、前期中間考査が終わり、気楽に夏祭りを待っていた。ゆかりは普段登校こそしないものの、定期考査は別室で受け、志弦との距離は一定に保っている。今日は真田家に入れてもらえたから、ゆかりと一緒にゲームをしながら課題も少し進めた。

「なぁ、ゆかり。お前さ、ちょっとアイツらに会ってみねぇ?」

「アイツらって、癒月と瑠永でしょ?却下」

「うーん、デスヨネ…」

 両親が離婚し、その際、母方の性を名乗ったゆかり。仮にまた、ヤツが居場所を特定しても大丈夫なようにとオートロック、暗証番号、指紋認証と守りは頑丈にしたつもりだ。何処にそんな大金があるのかはゆかりさえも聞いていない。

「所詮、私はあなたしか信じてない。あなたさえも信じられなくなったら私は…」

 若干震えた声で訴えてくる。

「…わかった。ごめん。もう言わねぇよ」

 数学の宿題を解きながらの会話を断つ。

「志弦はなんでそばにいてくれるの」

「俺が死ぬまでそばにいたいって思ったからかな」

「重くない…?」

「重いくらいがちょうど良くない…?」

(どうせ、あと、ね…)

「それはそう、かも…?」

「とにかく。俺がゆかりを守れなくても、支えたいって思ったんだよ。それだけ」

「ふーん?」

 ノートに視線を落として数式と睨めっこする。毎年六月はプリントが入った封筒を届けては毎回でないにしても一緒に勉強している。既読がつかないこともあるこの時期には実際に会うのがいちばん良い。

 学校に提出するものをまとめて志弦に渡す。

「今回もお願いね、志弦」

「うん、任された」

 玄関まで出てきてゆかりは見送った。

「また来るな、生きとってよ?」

「うーん、善処する()」

 ゆかりは志弦が見えなくなるまで玄関に出ていた。

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