朝ってつらかったっけ…

 五月七日、火曜日。連休明け最初の登校日…であるのにも関わらず、容赦なく七時間授業だ。いつものナンゼロに誰より早くついた癒月は静寂の中、ピアノの蓋を開け、鍵盤にかけてある布を外した。

(誰も、来ないですね…)

 いつもなら誰かしら、いやそろそろ来ないとバスの時刻表的に遅刻になるはず。心配なのは心配である、寧ろ心配で己の情緒が不安定になりそうですらある。しかし、明らかに心配しては向こうにも悪いだろう。グループに『おはよう』のスタンプを送って自分は課題に不備がないか確認する。


    —☆—☆—☆—


 なにか、鳴った気がする。考えられるのはゲームか何かの通知。着メロは切ってるから何の通知までかはわからない。

「動け、ないな…」

 なんとか最寄りのバスターミナルまで来たものの、ベンチに座り込んでしまっている。ちなみに既に発車していて次は一時間後。

(しんど…)

 ゆかりと瑠永が使うバスとは同じルートを通る部分も多いが、自分だけ違うバスを使っている。

(このまま、帰ろうかな…)

 スマホの画面を見る元気もない。

(座っているだけでグラグラする…)

 とはいえ、バスターミナルも名ばかりの、ベンチと自販機がいくつかあって屋根っぽいものがあるだけでちゃんとした建物ではない。そんな場所に不調を訴える身体と長時間いたら何由来でも悪化はする。学校の出席記録に学年クラス、出席番号と名前を入力して欠席のボタンを押して送信した。


  —☆—☆—☆—


 ピロン。と鳴ったメッセージの通知。

(癒月から…?)

 おはようと一言スタンプ。同じくスタンプで『おはよう』と『向かってマス』を送ってバスを待つ。乗る予定のバスが連休明けと雨模様が相まってか満車で『次の便をご利用下さい』と置いていかれたのだ。悲しいようであって瑠永は少しだけ安堵した。逆回りのバスになら乗れるは乗れるのだが、どのみち学校に間に合う便はない。遅延したわけではないから証明書が取れるかはわからない。寧ろ可能性は低いと思う。そうろくに調べもせず、尋ねることもせず、学校に遅刻の連絡を入れた。


  —☆—☆—☆—


 昨日は、いや、今日は三時に寝た。特に何があったとは思えない。ただ、本当に眠れなかった。引っ越して暫く経つマンションに射す日光が朝だと告げたのは午前十時。

(学校は…何時間目だっけ、いま…)

 回らない頭でリビングに出る。食卓のテーブルには朝ごはんと思しきものと母の手書きのメッセージ。

「学校、行くのめんどくさいなぁ…」

(でも六月に備えて行かないと…)

 学校に近くの連絡を入れて朝食を食べた。

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